第7話 埋め込まれた最後のピース

 古びた教会で…二人の男が対峙する。


???

「貴方が踏み入れた、その足音こそ…

 この儀式の最後の一手なのですよ…?」


ビィィンッ…!

(鈍い音が低く空間に響く)


アルセリオ

「……っ!?何をした…?」


???

「さぁ…?誰かが花瓶でも割ったのでは?それにしても…よくここに気づきましたねぇ。」


アルセリオ

「はっ!…あんな明からさまにしてりゃあ、気づいてくれって言ってる様なもんだぞ?…綺麗な六芒星だったな。

 それも、もう一つ追加すりゃ七芒星だ。」


???

「そうでしょう、そうでしょう…?

わたくし…美しくなる様に、頑張って考え抜いたのですよ…」


アルセリオ

「ちっ…異常者が。それで?お前はいつ名乗ってくれるんだ?」


???

「ああ〜…!これはこれは…申し遅れておりました…。それでは改めて、私の事はどうか…『道化師ピエロ』とお呼び下さい…」


 道化師は手を下げながら、深く一礼する。


アルセリオ

「ピエロか…お似合いの名前だな。特に、俺の地雷原でタップダンスしてるとことか…すげぇそっくりだぜ?自己中野朗。」


道化師

「お褒めに預かり光栄の至り…。ですが…ピエロはどちらかと?現に、貴方は未だ私の術中にあります。

──つまり、貴方は出し抜かれているのです。」


アルセリオ

「あっ?そりゃどう言う事だ?テメェの目的は"儀式"じゃねぇのかよ。」


道化師

「ああ…この儀式はデコイですよ…貴方方の視線を受けてもらうためのねぇ…」


アルセリオ

「なに……?それじゃあ…あの死体どもも、テメェが殺ったのか?」


道化師

「いえ、私が殺したのは最後の方…つまり、今回の本当の殺人鬼ですよ。狂っている…ね。」


アルセリオ

「それをテメェが言うのかよ…イカれ野朗。てことは、そばにあったタロットカードも、俺らへの挑戦状当てつけか?」


道化師

「ええ。その通りです。ただ…日の目を浴びる場所に置いただけでは味気無いと思いまして…ささやかなプレゼントですよ。」


アルセリオ

「嫌な趣味だな…気持ち悪ぃ…。

 でだ、最初の…俺が最後の一手だってのはどう言うことだ?」


道化師

「まだお気づきにならないので…?貴方が持っているそれ…そう、香水ですよ。それがこの儀式を完成へと導いてくれるのです。」


アルセリオ

「儀式はデコイなんじゃなかったのか?」


道化師

「ええ…だから"この"儀式は、と言ったのです。本来の目的は別にある…」


道化師

「これ…なんだか分かります…?」


 そう言うと…彼の指の隙間から金色に輝く物体が覗く…。


アルセリオ

「そりゃあ…!?……この国の国宝じゃねぇか!!なるほど。既に達せられたって事か。つまり…」


道化師

「どうぞ…?続けて下さい…」


アルセリオ

「テメェの目的は最初はなからこの皇国の国宝で、それを俺らに嗅ぎつけられねぇよう…連続変死事件を利用し、その間に盗み取る計画だったって訳だ。


──おそらく、テメェは座標指定の転移か何かが使えるんだろう…。

 それで、俺が来た事でテメェの用意した"本当"の儀式が完成し…さっきの音と共に…皇都を守る結界を破り去る事で、転移に成功した。……こんな所か…?」


 ふっ…ふふ…と不気味な笑い声を発したかと思うと…道化師は両手を広げ、天をあおりながら…こう言う。


道化師

「素晴らしい…素晴らしいですよ探偵殿!!まさか…私の力まで読み取られるとは…感服致しました…ですが…今回は私の勝利ですね。」


アルセリオ

「はっ!そんなもん…ここでテメェをとっ捕まえれば良いだろ?……って言いたい所だが…もうここには居ない様だな。まったく…随分と慎重なもんだ。」


道化師

「これはまた…お褒めに預かり光栄ですよ…。それと…件の古文書については、私は一切関わってはおりませんので悪しからず…」


アルセリオ

「それは本当か…?」


道化師

「ええ。今更嘘など吐きませんよ。」


アルセリオ

「そうか…なるほど。まぁ、今回は俺の完敗だな。しっかりと出し抜かれた。」


道化師

「えぇ…それはそれは嬉しいものです。…それでは…。貴方を初めて負かした男がこの、道化師ピエロであると…しかと覚えておいて下さいね…?」


アルセリオ(自嘲気味に)

「忘れたくても忘れられるかよ…こんな屈辱はな。さっさと行きやがれ…変態野朗。」


道化師

「では、さっさと行かせてもらいます…。また…何処かで会えるかも知れませんので、是非お待ちしておいて下さいね?


──それでは、貴方の人生に幸運あれ…。」


 そう言って…彼の投影された姿が、ゆっくりと消えていった…。


アルセリオ

「誰が会いてぇかっつの。それに、テメェの口から祝福されるたぁ…どんな呪いよりも気味が悪ぃな。」


 そう悪態をつくアルセリオの元に、遠くから大柄な男が走ってくる。


シグルド

「おい!アル!!怪我はねぇか…って、どうした?なんで笑ってんだ?」


アルセリオ

「んっ……?…ああ、俺は笑っていたのか…そうだな。これは笑えたな。」


シグルド

「……?」


アルセリオ

「気にしなくて良い。こっちの話だ…」


シグルド

「事件は…?もう…終わったのか?」


アルセリオ

「ああ。終わったさ…完敗でな。だが…次は勝つ。絶対にだ……」


シグルド

「……悔しそうな顔してんな、アル。けど、それでいい。」


「俺たちは負けた時が一番、強くなれる。」


アルセリオ

「そうだな…。心に刻んでおくよ。それじゃあ帰ろうか、親父。」


シグルド

「ああ、そうしよう…。

 そう言やぁ…今日の晩飯はどうすんだ?ルリやレオがお腹空かせてるだろ?」


アルセリオ

「あっ!そうだった。忘れてたぜ。またルリに怒られちまう…!!」


 焦りを見せながら、アルセリオは全力で走りだす。


シグルド

「はっはは!賑やかな奴だ…。…って、また走るのかよっ!!」


 シグルドはその老体に鞭を打ち…全力で着いていく…。


 そして、今宵は…幻灯ではなく…美しく輝く月に、照らされたのであった。


  ***


 何処かの舞台裏で…ある男がため息を吐く。


???

「はぁ……人の皮をわざわざ被ってまで現界したというのに、アレを手に入れられないとはな…。

 力が不十分とはいえ…ヤキが回ったか?」


???

「まぁ良い…時間はある。ゆっくりと探しておくとするか。

…月が綺麗であるな…気に食わん。」


 そう不機嫌な顔をして、何処か不安定な影のような男が、闇に溶け込んでいく。

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