第2話 騎士の諸事情

カランカラン…


アルセリオ「ただいま…」


シグルド

「おう!帰ったか!!それで、変な事でもあったか?顔が強張ってるぜ?」


 彼はアルセリオの顔色を窺いながらそう言う。


アルセリオ

「また、被害が出たんだよ…」


シグルド

「なるほど、あの連続変死か。これで5人目ってとこだろ?」


アルセリオ

「良く知ってるな…?騎士団側からは3人目って事になってるはずだが…」


シグルド

「誰がお前に色々教えたと思ってんだ?

 …まぁ、正直な所、当てがあんのさ。」


 シグルドはそう、グラスを揺らしながら不敵な笑みを浮かべる。


アルセリオ

「ああ、あの情報屋か。神出鬼没って聞くが…良く会えるな。」


シグルド

「すげぇだろ?もっと褒めてくれたって良いんだぜ?」


アルセリオ

「はいはい凄いですねー。」


シグルド

「ちぇっ。つれないねぇ〜…」


──そう悪態をつく。


アルセリオ

「その情報屋繋がりで知ってたら教えて欲しいんだがよ。

 今回の事件、賞金首の奴らでも関わってんのか?これだけの期間で、足が付かねぇって相当だろ?」


シグルド

「そりゃ聞いてなかったな…有り得そうなのは、【夜彗】のノクタルク、【白晶姫】のミユ、【鉄冠老】のガルド。ここら辺か?」


アルセリオ

「…まず白晶姫は無ぇな。あれの被害に遭えば、死体はもっと綺麗に残ってるはずさ。まるで剥製みてぇに。」


シグルド

「なら夜彗の線も無いか。アイツなら事前に予告状を送り、ターゲットを示唆する暗号を配置する癖がある。それに、無駄にいたぶった跡が残ってるはずだしな。」


アルセリオ

「なら鉄冠老か…?だが、全身が解体されてねぇから違ぇか…まぁ、証拠もまだ揃ってねぇから考えても無駄だな。」


アルセリオ

「んで、レオはどうした?いねぇぞ?」


シグルド

「知り合いに会ってきてんだとよ。」


アルセリオ

「アイツに知り合いねぇ…記憶喪失とはいえ、そこそこ長い時間この街に居るしな。そんなこともあるか。それで、ルーは?」


シグルド

「寝てる。ぐっすりとな。散々遊んだ挙句にな?」


アルセリオ

「そうか…そりゃ良かった。幸せそうならそれで良いさ。」


 二人はしんみりとした顔をする。


シグルド

「そうだな…まったく。引き取る事にして良かったと思うぜ。でなきゃ、天涯孤独になる所だったろうからな…」


アルセリオ

「それについてはファインプレーだな、親父。」


シグルド

「それ以外も…だろ?」


アルセリオ

「はっ!寝言は寝て言え。」


シグルド

「手厳しいねぇ…。まぁ、いつもの事か。」


  ***


 アルセリオがシグルドと話している頃、裏路地ではもう一人の男が顔を合わせていた―― 。


レオナール

「よう、また来たぞ。テオと…カルナ。最近はどうだ?」


 荘厳な服を着たガタイの良い男と、黒髪に青いメッシュが目立つ、スラッとした男が立っている。


アペルテス

「うむ!久方ぶりだな。レオナール卿。俺は最近、【彷徨う者達ドミネクリプス】の件で大忙しだ。」


カルナ

「俺もその件で、アペルテスに協力を打診された。協力は苦手だが…

まぁ、どうにかなるだろう。」


アペルテス

「と言う事は受けてくれるのだな。

感謝するぞ、カルナ卿。」


 カルナの言葉に、アペルテスは安堵した顔でそう言う。


カルナ

「まぁ…どちらにしても、ドミネクリプスの件を片付ければ、街の空気も少しはマシになるな。」


アペルテス

「それだけだと良いのだがな…。

まぁ、深くは話さぬさ。」


レオナール

「俺も結局関わる事になるかもだな。アルがまた首を突っ込むだろうから。」


アペルテス

「やはり彼は超がつくほどのお人好しであるな。気持ちの良い男だ。」


カルナ(同調して)

「あんな胡散臭い顔してるのにな…うむ、やはり人は見た目で判断など出来ないか。」


レオナール

「それを言えば、カルナ殿も見た目に反して、意外と気の良い人だろう…?」


カルナ

「むっ…?俺は見たままだと思うが。」


アペルテス

「まぁ、協調性は無いかもだな。」


カルナ

「ぐうの音も出ないな…。まぁ、言い訳なぞする気も起きないとは言えな。」


カルナ

「そういえば、レオナールの所の幻灯探偵社…依頼とかは来ていないのか?」


レオナール

「来て無いな…。強いて言うならば、猫探しや掃除の雑用だけだ。」


カルナ

「ふむ…経営とか大丈夫か?

結構厳しいだろう?」


 そう、カルナは心配した様に言う。


レオナール

「いや、問題ない。貯蓄だけは…尽きぬほどあるからな。」


アペルテス

「ああ…なるほど。シグルド卿が貯めている一生分の財産があるのであったな。」


レオナール

「そう言う事だ。本当に、親父殿には感謝ばかりだ…。

 それに、路地裏で倒れていた俺を、拾うだけでなく、衣食住を全て与えてくれた。本当に…命の恩人だな。」


カルナ

「人格者だな……羨ましい限りだ。

俺の所の奴らはみんな癖が強いからな。」


アペルテス&レオナール

「………。」


カルナ

「むっ?なんだ…。そんなに俺を見つめて。」


アペルテス

「いや…そなたがそれを言うのかと疑問に思ってしまってな…。」


カルナ(不思議そうに首を傾げ)

「俺の何処が癖が強いと?」


レオナール

「色々と…だな。まぁ、類は友を呼ぶとはこの事だと、思っているよ。」


アペルテス

「それでは、俺はそろそろ帰るとしよう。仕事が押しているのでな。」


カルナ

「まだ、煮え切らないが…俺もそろそろ帰らせてもらうかな。」


レオナール

「それでは、みな…また会おう。」


 そう言って、3人は各々の帰路に立つ。

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