第4話 大人の魅力…
薄暗い静かな部屋だった。
外の音はほとんど聞こえず、空気に甘く柔らかい香りが漂っている。
嗅いでいるだけで意識が少しぼやけるような、不思議な匂いだ。
部屋の中心には、やけに大きく柔らかそうなベッドが置かれている。
シェリーはそこに腰掛け、片手で冬弥を誘うように軽く手招きをした。
「こっち、来て?♡」
冬弥がベッドの端に座ると、シェリーはすぐに背後から腕を伸ばし、肩に手を置いた。
指が首筋へ流れるように触れ、軽く押す。
冬弥の体がわずかに震えると、シェリーは息を漏らして笑った。
部屋の香りと低い明かりのせいか、冬弥の反応は普段よりも敏感だ。
「緊張してる?」
彼の耳元で囁くように言いながら、シェリーは背中に手のひらを滑らせる。
「し、してないよ……」
「へぇ、そうなの?」
そう言って、彼女は冬弥の肩を前から包み込むように抱き寄せた。
胸元や首筋、腕を……体温を確かめるようにゆっくり触れていく。
ひとつひとつの動きが妙に丁寧で、観察しているのが明らかだった。
甘い香りが冬弥の呼吸に混ざり、意識がふわりと揺れる。
「……あの、シェリーさん……ち、近いです…」
「大丈夫。ちょっと“試したいこと”があるだけだから」
耳の後ろに指が触れた瞬間、冬弥は思わず息を飲んだ。
シェリーはすぐそれに気づき、にやりと笑う。
「やっぱり……ここ弱いのね」
指先が、耳の後ろから首筋へ。
首筋から鎖骨へ、鎖骨から胸元へ。
反応を確かめるように優しく、でも逃がさない触れ方でなぞっていく。
冬弥の表情を見ながら、シェリーは身体をさらに寄せた。
冬弥の背中に柔らかな感触が触れ、彼は思わず硬直する。
「冬弥、ちょっと横になって?」
「よ、横にですか?……」
「いいから。少しだけよ」
促されるまま、冬弥はベッドに仰向けになった。
薄暗い天井を見上げると、視界の端にシェリーの姿が映る。
彼女は冬弥の頭の近くに手をつき、覗き込むような体勢になった。
そして――
「よし。これで“状態”がよく分かるわ」
「お、俺の状態……?」
シェリーは唇に指を当てて微笑む。
「大丈夫♡今は私に委ねて…」
甘い香りの中で、彼女の髪が冬弥の頬に触れた。
(や、やばい…試したいことがあるだけなのに…雰囲気に流されそうだ…)
シェリーは冬弥の指と自分の指を絡めるように握り込む。
「っ!」
(シェリーさんは本気で始めようとしてる…もう、やるしかない…!)
「ふふっ♡緊張しているのね…可愛い…♡」
シェリーは冬弥が手を握られて緊張していることを察して微笑みかける。
「シェリーさん…!」
「ん〜?どうしたの〜?♡」
(いける!―――《貪欲吸収》――!!)
絡み合った左手の指から冬弥はシェリーのHPとMPを吸収し始めた。
「んっ///――何これっ//♡」
(ん?これ反応がなんか…)
「ちょっと////――やめてっ///♡」
「大丈夫ですか?」
(吸収されると性感に反応するのか…?)
「な、なんかっ////――身体が熱いのっ////」
(流石にまずいよな…止めよう…っていうかどうやって止めるんだ…?)
シェリーの甘い声に恥ずかしさを感じた冬弥はスキルを止めようとしたが、止め方が分からずシェリーのHPとMPを完全に枯渇させきってしまった。
「あ、あの、ごめんなさい…」
「んっ//大丈夫よ〜収まってきたから〜」
力が入らずにベッドに倒れ込みながらシェリーは言い、冬弥を安心させようとした。
(死んでいないということはHPは1で止まるようになっているのかな?)
「けど、力が入らないから今夜はもう駄目ね」
「は、はい本当にごめんなさい…」
(まじで殺さなくてよかった…)
冬弥はこれ以上迷惑をかけないよう、店を出るようにした。
「また来てくださいね♡」
シェリーは顔を赤らめながら冬弥にいった。
「は、は〜い」
(恐ろしいスキルだったぞ――《貪欲吸収》――)
♢
――夜が明け、結局一睡もできなかった冬弥の目の下には隈ができていた――
「ステータス・オープン」
少し気だるさと眠気を感じながら冬弥は自分のステータスを確認する。
【氷鷹 冬弥】
レベル:5
HP:75
MP:40
筋力:7
敏捷:7
耐久:6
知力:7
幸運:12
特性:色欲神の加護
スキル:《魅了》《貪欲吸収》
(昨日はルミアたちとレベル5まで上げたけど経験がまだまだ足りないな…)
「やることもないし今日もレベル上げと金稼ぎ頑張るか…!」
冬弥は仕事にはついてないが魔物を倒すことで生活に必要なお金を稼いでいた。
♢
冬弥は東門から外に出て、低級魔物と呼ばれるスライムやゴブリンなどを次々と倒した。その後、薄暗い森の奥へと足を踏み入れる。
「この森、暗すぎだろ…」
明かりを灯す術を持たない冬弥は、進むべきか戻るべきか迷っていた。
――その瞬間。
「グガッ!!」
影が冬弥の前に飛び出し、鋭い爪が振り下ろされる。
反射的に身を翻した冬弥は、わずかに手前に飛び退き、攻撃を回避した。
目の前に立っていたのは、ただのゴブリンではなかった。
小柄な体だが、鋭利な短剣を持ち、動きが異常に速い――まさに ゴブリンアサシン だった。
「こ、こいつ…動きが速すぎる…!」
ゴブリンアサシンは静かに、素早く左右に移動しながら、冬弥を翻弄する。
斬りかかる瞬間を読もうとしても、動きが読めず、ほんのわずかの判断ミスが致命傷になりかねない。
(強敵なら丁度いい!!新スキルを試してやるぜ…!!)
「行くぞ!――《鑑定眼》――!!」
ゴブリンアサシンのステータスが冬弥の視界に映し出される。
(なるほど、レベルと持っているスキルだけ分かるのか…)
ゴブリンアサシンは鋭い短剣を冬弥に向けて襲いかかった。
「っ!?」
(き、消えた…?)
目で追っていたゴブリンアサシンが突然、視界から消えたと思ったら背後からの重い打撃…。
(痛っ――今のが《超加速》ということか…全く見えないな…)
ゴブリンアサシンの動きについていけない冬弥は1つの作戦を思いついたのだった。
(こいつのスキル…絶対に奪ってやるぜ…!)
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