角だけ魔族の太郎さん〜人材育成から始める魔王軍マネジメント〜
@dole225
序章
ハロウィンの帰り道。
俺の頭には、外向きにそった矢印型の黒い角カチューシャが乗っている。
「……帰ったらシャワー浴びて、資料仕上げるか。
明日の打ち合わせ、課長にアピールするチャンスだしな。」
見た目はふざけているが、仕事は真剣だ。
俺はしがない係長だけど、
最近ようやく課長昇進が視野に入ってきた。
上からも下からも大変だが、逃げる気はない。
むしろやってやるつもりだ。
……ただ、体力だけは限界ギリギリだ。
そう独りごちた瞬間、
頭の角カチューシャが小さく揺れた。
その直後、視界が白く弾けた。
「っ……!」
次に目を開けたとき、俺は草の上に倒れていた。
冷たい風。見たことのない星空。
街の灯も車の音もない。
(どこだここ……?)
起き上がろうとしたとき——
「誰か倒れてるぞ!」
「おい、角がある……柔角族か!?」
複数の影がこちらへ向かってくる。
角。牙。尖った耳。
どう見ても現実離れしている。
(なんだこいつら……!?
いや、こんなリアルなコスプレ……ありえないだろ……)
困惑していると、彼らが俺を取り囲んだ。
「二本角……左右に反っている……柔角族の特徴だ。」
「だが形状が珍しい。どこの部族だ?」
(部族……?
角ってこれ、カチューシャなんだが……)
「名を名乗れ。」
「……山田太郎。
しがない係長です……。」
言った瞬間、空気がざわつく。
「“しが……ない”?」
「“死がない”……?
不死族か!!」
「いや違う!!!」
慌てて両手を振った。
「“しがない”は地味で大したことないです!
不死とかじゃない!」
言い切った途端、
角カチューシャが小さく揺れた。
「角が反応した……」
「本当のことを言った証……?」
(違う違う違う、ただのバネ式……!)
そこへ、知性ある雰囲気の女性の魔族が歩み寄る。
「名は太郎と言ったか。」
「はい……」
「タロ……魔族語の標準・中庸に語感が近い。
柔角族らしい名だ。」
(いや偶然なんだよ……
昔話で主人公がよく太郎だったりするだけで……)
「太郎、お前は柔角族だな。
まずは保護する。」
「いや、ちょっ——」
腕をつかまれ、強引に立たされる。
(柔角族ってなんだよ……
俺、ただの人間なんだけど……
角はカチューシャなんだけど……)
だが彼らは聞く耳を持たない。
「嘘をついていないのは角が示した。」
「珍しい個体だが、柔角族で間違いない。」
(いやほんと違うって……!!)
こうして俺は、
偶然揺れただけのカチューシャのせいで柔角族扱いされ、
異世界で生きることになった。
──俺の異世界生活は、ここから始まる。
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