第5話 脳内会議
第三章 脳内会議
「ストリートに立つなら、ギターも弾けないとダメだろうな。ギター習わないと」どうでもいい話を、続ける俺の隣の席に、奥のボックス席にいた女子(丸の内サディスティック娘)が突然、座った。おお!と心の中でびっくりしたが、向こう隣のぽっちゃり男と話し出したのを見て、この2人は同じ会社に勤めているのを思い出し、顔見知りかもしれないなと思って様子を窺う。
黒髪ストレートの髪は肩までくらいの長さ、黒縁眼鏡をかけている奥の瞳は、横からではあまり見えなかった。上品な白いブラウスをきて、ひざ丈のフレアスカートを履いている。
「ギターは指先が痛くてむりだな」まだゆうきちゃんと会話を続けていると、ゆうきちゃんは丸の内サディスティック娘に「あ、こっちに来たんだ。グラス持ってくる?」と聞いている。「うん。」と笑顔で答える横顔が酔いで上気して赤くなっていた。(20代後半くらいか。かなり美人だ)と、心の中で思う。
向こう隣のぽっちゃり男が丸の内サディスティック娘に熱心に話しかけている。「あの仕事は僕がサブリーダーで進めていた案件で、」こっちを向いて大声で話すからオレまで全部筒抜けになってる。(美人が来て浮ついてるな。でも共通の話題がないからって会社の話はないだろう。そういうとこだぞ、ぽっちゃり)と心の中で突っ込む。
よく観察してみると丸の内サディスティック娘(丸の内ちゃん)はおざなりに返事をしてるような気がする。やっぱりちょっとうざいんだろうなぽっちゃり(ポッチャマ)。 話の端々で仕事とかポジションを、自慢してる。マウントとるのに必死で自信ないんだろうな。そんな話を横で聞きながら酒を飲む。
ずっとポッチャマのマシンガントークが炸裂しているのを、見かねたであろうゆうきちゃんがポッチャマに話しかけた。「稲尾さん、カラオケ入ってないよ」「あのプロジェクトの…え!ああ、そうだね。ゆうきちゃん」ポッチャマがデンモクをいじりだした隙に、丸の内ちゃんはこっちを向く。ふいに目が合ってしまい戸惑う。「歌、うまいですね。さっきの優里、原曲キーで歌っている人、初めてみましたよ!」と丸の内さんが笑顔で話しかけてきた。
人見知りオタクおじさんは至近距離の美人笑顔攻撃で、壊滅的ダメージを受けて、灰になりかけたが、表面上はいつもどおりのポーカーフェイスで、「いやいや、歌い慣れているだけでそんな歌はうまくないんですよ。高音もギリギリ」と返答する。
脳内会議がはじまる。(楽観的オレ・さっきまで反対側のポッチャマとしゃべっていたのに、いまは完全にこっち向いて座っている。オレと話がしたいのか?
悲観的オレ・いやいやポッチャマに絡まれるのが嫌でこっちに話しかけているだけかもしれんぞ。
冷静なオレ・でもそれならわざわざここに居座らないのではないか?すぐに奥のボックス席に戻ればいいだけだろう?)などと自意識が勝手に会議を始めたが、丸の内ちゃんはニコニコしながら「いや、うまいですよ。その前のレミオロメンもよかったです。なんか他にも歌ってください!」と言いだす。えええ。実際、自分でそんなに歌は、うまくないのは知っているので、うわーこれはやばいなと急に追い込まれる。
参ったな。この娘の中でなぜか歌うまおじさんと認識されている。いっそのこと激ムズのヒゲダンのプリテンダーでも歌って、自爆する。ということも思いついたがみんな楽しく歌っているときに、まったく歌えない歌で邪魔するのも気が引ける。なんて考えてると先にポッチャマの歌が入った。「あ、オレの歌だ」ポッチャマは焦った顔をしながらデカい声で言う。丸の内ちゃんの興味を惹きたいんだろうな。
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