AI恋愛トレーニング

 女の恋愛には時間が必要だ。男みたいに短時間で一気に燃え上がるというのとは違う。

 男の告白が玉砕しやすいのは、この男女の違いに気づいてないからだ。

 男は思い立ったが吉日で一気に行こうとする。

 でも女には心の整理、好きかどうかを自分の心に聞いて判断する時間が必要なので告白から一気に来られても女は引いてしまう。

 それが分かった振る舞いをすると、女からこの人、余裕あるんだ……となる。

 つまり

『気持ちだけ伝えさせて、返事は君の好きなタイミングで良いから。むしろ返事したくなかったらしなくても構わない』

 で、告白だけしてあとはそんなことなかったようなフリして彼女の前から去る。

 これが成功率高い。

 女に考える余裕を与えてあげるのがポイントだ。

 ――――で、

 ミハエルは世紀末スタイルへと変わる。

「うぉおおうう、ねーちゃん……オレと世紀末をトゥギャザーしようぜぇっぇぇ!」

 でーんででーん! ででででーんでーん! でーんででーん! ででででーんでーん! (デスメタル) ぎゃーぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃんんんんんんんんんん!

AI幻覚魔法、AI幻覚変身ディスガイズ・イリュージョンを駆使してミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ公爵は自分の頭をモヒカンに変える。

 そしてわざと舌をべろんべろん外に出して、モヒカンをAI彼女に向けたりもしてアウトローを演出する。

「あ゛ーーーーーー」

 ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ公爵は舌をべろんべろんさせながら、どたどたとAI女を追いかけまくる。斧をもって。

「あ゛ーーーーーー」

 よくわからないうめき声まで上げて。

「ぷーくくくっ」

「あははははっ」

 天馬蒼依とエレナ=オブ=メノーシェをはじめ、女連中から笑いを堪えきれない声が上がる。

「絶対真面目にやってないよね、ミハエルさん」

「ですよね~」

「待て!」

 そこでラルス=ローゼンベルクが割って入る。

「なんだこらぁ! 名を名乗れぇい~~~~やっ、ぷるるるるるるっ!」

 舌をべろんべろんさせ、変顔をしながら、ミハエル。

「お前に名乗る名などない!」

 気然とラルス=ローゼンベルグは言い放つ。ミレーヌ=ローゼンベルグとミハエルの息子だ。結構ミハエルに似ている。髪は黒だが。

「なんだとぉぉ! 名前もねえくせに、名無しの権兵衛のくせに偉そうな口を叩くんじゃねえ!」

 ミハエルは憤怒の顔で斧を振り上げラルス=ローゼンベルグへ躍りかかる。

 そしてそこは年齢1桁の時から戦争に参戦していたミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ公爵。やられ方もうまい。

「フィンセント! ヴァン! ゴッホ!」

 やられ台詞が怪しいのが気にかかるが。

 ミハエルは

(地球の後期印象派で死ぬか)

 と心に誓っていた。

 ラルス=ローゼンベルクの動きを観察し、彼の動きに合わせてやられていく。

「全体的にかなりふざけてるけど、うまいわね。ミハエル」

 真剣な表情で、水鏡冬華が評価する。

「いやいや。ふざけ方がまだまだ甘いわよ~」

 春女――桜雪さゆがそうダメ出しをする。

「おま、おまえはいつもふざけすぎなんだっつーの!」

 水鏡冬華は、ちょっとどもりながら悪友にツッコミを入れる。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「と、いうわけで。今のが反面教師として最適な男の告白だ。100%失敗する。

 女の恋愛には時間が必要だ。男みたいに短時間で一気に燃え上がるというのとは違う。

 特に男ども! よく聞けよ。

 Gods is in the magicTVなクソ野郎にはなるなよ

 セックスやドラッグに飼いならされんじゃねぇぞ!

 権力に抗わずにオネンネしてる醜い大人になんかなるんじゃねえぞ!

 強烈な刺激なんてすべて妄想だ! 真実としてあるのは腹の内の真心だけだ」

 ミハエルは男の子どもたちとサミュエル=ローズに向かって言い放つ。

「わたしが経験から知った女の恋愛までのランクには3段階のランクがある。

 男の告白が玉砕しやすいのは、この男女の違いに気づいてないからだ。

 男は思い立ったが吉日で一気に行こうとする。

 でも女には心の整理、好きかどうかを自分の心に聞いて判断する時間が必要なので告白から一気に来られても女は引いてしまう。

 それが分かった振る舞いをすると、女からこの人、余裕あるんだ……となる。

 1段階目。

 女は男を『恋愛対象予備軍』の箱にとりあえず放り込む。

 2段階目。

 恋人にしてもいいと確信する。

 2軍の予備軍箱から1軍の確信箱に男を入れ替える。

 革新とは違うのであしからず。

 3段階目。1軍どころか彼女のスター選手入り。

 この段階になると、女の行動は変わる。

『魅力的なこの人に気に入られたい』

『この人のそばにいたい』

『もっとキレイになりたい!』

 ここまでくると女から部屋の侵略が始まる。心霊現象みたいにな! むしろ炎症だ。心霊炎症だ」

「心霊炎症ってアンタ……」

 水鏡冬華が腕組んで半眼でうなるが、ミハエルはスルーする。

「歯ブラシ立てている場所にいつの間にか見知らぬ歯ブラシが刺さっていたり、引き出し開けるとカミソリが出てきたり――ホラーじゃなくて彼女のムダ毛処理用ね――ヘアトリートメントの道具が引き出しから出てきたり。

 する。うん。うん……こわいよ!! はっきりいって! わたし侵略されている気持ちになったもん! 彼女の私物がいつの間にか部屋を侵略しているんだ」

 ミハエルの説明で、やや緊張感を持った顔になるサミュエル=ローズとミハエルの男の子どもたち。女グループはのほほんとしている。

 で、第一段階では、一定以上幻滅ポイントがたまると女は去っていく。

 わたしはこれを利用して、幻滅ポイントを一生懸命貯めているのに女が去らない! なぜだ! 男3人で暮らしたいのに! ちなみに、例はこんなかんじかな。

 店員に偉そうな態度をとる

 優柔不断、頼りがいがない

 ゴキを怖がる

 第2段階は、むしろ普通。普通に親密になっていけばいい。

 と思ったら大間違い。

 盛り上げよう、と普通なら思う。

 しかし、

『あ、時間だから。また明日』

 切る事が一番効果が出ちゃった。

 女よりフレッドやアリウスと話してる方が楽しいのに、焦らしととられたようなんだ。

 どうもね。フレッドが言うには、

『女に軽くストレスを与えることで、女はミハさんの事を考える時間が増えていく。嫌われたいなら、逆効果だぜそれ。うくくっ』

 らしいんだ。

 適度なストレスを与える男は『魅力的』なんだとさ。

 ん~なんしらねーから、わたしは途中で切り上げて帰る。焦らしの効果もあっても。

 以上の情報を持って、男はAI彼女、女はAI彼氏で今から実技試験だ! いや、試験じゃないか。AIを相手にした実技で楽しんでくれ。

 あまりAI怒らせたら、死の呪文を連発するようにAIに言ってるから気をつけろよ。頭に長~い帽子かぶったら死の呪文の合図だ。

 じゃあみんな自分の席の魔導PCでAI恋愛して! AI彼氏や彼女の外見はAI絵で変更できる! 自分好みの異性にAI絵で変化させろ! こんな風にね! 色気のある異性に君の手で変えろ!」

 こんな風 https://kakuyomu.jp/users/mrwhite/news/16818622177612761059

 ウソを言い――いや半分本当だが、死の呪文に魔力は込められていない、元に戻ったミハエル。口調も普通に戻してる。

「おい! これ、見えてるじゃないか!」

 ブラックヴァルキリー・カーラが抗議する。当たり前と言えば当たり前だが。

「うん」

 ミハエルの返事はすんなりしている。

「うんじゃない! お前わたしを馬鹿にしているのか!」

 顔を真っ赤にしてカーラは抗議を続ける。

「いや。セクシーだし」

「…………で、でも………こんな……」

 言葉につまるカーラ。

「…………すけべ」

 水鏡冬華は半眼で、チョークをミハエルの脳天に利き手の左手で投げた。

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