第2話 美少女エルフ登場
「……ハハッ、人形か」
驚愕、恐怖、そして呆然と順に襲ってきて、最後には悲壮感がやってくる。
水面に変わり果てた自身の姿を写しながら、しばらくその場から動けずにいた。
例えこれが死後に視る夢だったとして、それが生前の自分を表すというのならば、この暗い洞窟、そしてこの姿も妥当といえよう。
しかし、死んでまでこんな姿を晒すことになるとは。
僕は大きくため息を吐いた。
やがて何の気もなしに水面を眺めていると、足元がユラユラと揺れ始めた。地震に似ているが、何かがおかしい。
体感で二分ほどだったろうか。揺れが収まった後、今度は何かの雄叫び……咆哮のような音が聞こえてきた。
「ドラゴンになった奴でもいるのか?」
生前に何をどうしたらドラゴンになれるのかは分からないが、他の者がいる可能性は出てきた。
わざわざこの姿を他人に晒すのは気が引けるが、この暗い洞窟の中でずっと独りというのはもっと嫌だ。
「よし、探しに行こう」
出会うのが例えドラゴンだとしても、僕のように“転生した人間”であるならば、多少の虚しさも癒えるというものだろう。
あてもなく、出会える確証も無い。でも僕は歩き出した。
洞窟は丸みを帯びた岩で形成され、至る所に削られたような箇所が見受けられる。
依然として地下のような湿気と、先が見えないほど暗く長い道を短い脚で進んでいく。
そうして水路のあった大きな部屋から歩き始めて二十分ほどが経った時、見覚えのある物体がポヨポヨと跳ねながらこちらに近づいてきた。
「これは、スライムか?」
生前、ウチの会社とアニメ制作事務所がコラボした際に見たことがある。確か、ゲームやアニメ、ライトノベル……それらに頻繁に登場するモンスターだ。
「あの……貴方も人間の生まれ変わり、です?」
どうしてかカタコトになってしまったが、もし人間だったのなら意味は通じるはず。しかし、ポヨポヨの彼はうんともすんとも返事をすることはなく、僕の横を通り過ぎて行った。
言葉を発せないタイプなのか、そもそもここに居る全てが人間の死者ではないのか。
「待てえぇ! ちょっ、まっ、待ってくださいいいぃ!」
ちょうどスライムが来た方向から何者かが走ってくるのが見えた。シルエットからして人間のようだが――。
「な、ななななんですかアナタは?!」
「いや、なんですかと言われても……」
「しゃしゃしゃ、喋ったあぁ?!」
なんだか喧しい人だ。いやこの娘、どうやら人ではない。その耳の長さはどう見ても普通の人間のそれではない。
これもアニメなんかに登場するやつだったか、えっと確か……。
「エルフ」
「はい、エルフです!」
見事に正解だ。
「じゃなくて! アナタは何者ですか?
「傀儡って響きはなんか嫌だな」
間違いではないけど、正しくもない。
「じゃあ、もしかして、モモモモモモモンスター?!」
「おいおいおい、剣を向けるな!」
「はい!」
素直なんだよなぁ。
「君も元人間?」
「へ?」
「だから、死んでここに来た人間じゃないのかって」
「違いますけど」
眉が八の字になってるぞ。
「じゃあ、生まれた時からその姿?」
「はい。えっと……アナタは生まれ変わってその姿に?」
「生まれ変わって、というのが正しいのかは分からないけど、死んだはずが気付けばこの姿で……って、泣いてる!?」
「だ、だって、死んじゃったなんて可哀想でええぇ」
純粋なんだよなぁ。
しかし生まれ変わりか。輪廻転生という言葉自体は知っているが、人形に転生することなんてあり得るのだろうか。
いや、その前に何故僕はこんなにも冷静なんだ。相手は
「ちょっと聞きたいんだけど、ここはどこで、なんていう国なの?」
「えっとですね、ここはアスナート帝国のチャドプールダンジョンですよ」
聞いたことのない国名だ。それに、ダンジョンってなんだ?
「ダンジョンとは迷宮とも呼ばれ、魔力溜まりから自然発生する建物のことですね」
「遺跡、みたいなものか」
でも遺跡は自然発生しないしな。
「ちょっと待て。この世界には魔法があるのか?!」
「はい、ありますよ? ほら」
エルフの少女の指先にボッと火が灯る。
マジで異世界転生しちゃったらしい。
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