第5話 望月さんは駄々洩れです(秘密が)

「良かったっ! まだ半身が残ってたのでどうしようかと思ってたんです♪」


「…………」


 十分後、我が家のキッチンにブタさんエプロンを身に着けた望月さんがいた。

 制服美少女が、手料理を作ってくれる。

 夢のようなシチュエーションだが、僕にはそれを楽しむ余裕はなかった。


 でで~ん


 なぜなら、異様なオーラを放つ食材(?)がまな板を占領しているからだ。

 何かの肉とおぼしきそれはかなりの肉厚で、どす黒い表皮が不安をあおる。


 ばちっ、ばちばちっ


 目の錯覚か、青白いスパークが肉の表面を走った気がする。


(これってまさか……電気ウナギでは!?!?)


 限界食材を食べまくる配信者の動画で見たことがある。

 その電撃で牛を昏倒させることもあるという、究極のゲテモノモンスターだ。


「も、望月さん? もしかして?」


「あ、お友達に釣ってきてもらったんです。生きたまま税関を通すのが大変だったみたいですけど♪」


 うん、そうだね。いろいろな規定に引っかかりそうだね。

 だけど僕が聞きたかったのはそれではなく。


「さっきのサンドウィッチにもこれが……」


「よしっ!」


 僕の言葉が耳に入らなかったのか、望月さんは絶縁手袋をはめてセラミック製の包丁を手に取る。


「えいっ♪」


 ばすんっ


 可愛い掛け声と共に、電気ウナギの半身(推定)が真っ二つになる。ばちんと電気のスパークが散った。


「相手を仕留める前に、自分が感電しちゃダメですからね♪」


「え、えええええっ!?」


 とんでもないことを言ったぞこの子。

 もしかして、僕は隣の美少女に命を狙われている?

 最初の学歴厨発言がそんなにダメでしたか?


「……ん、どうかしました?」


 僕の反応に、不思議そうな表情を浮かべて小首をかしげる望月さん。

 どうやら先ほどの台詞は無意識発言のようだ。


「え、ええっと」


 脳をフル回転させる。

 先ほどの台詞は女子高生ジョーク(?)だったとしても、彼女はかなりのゲテモノ趣味のようだ。

 電気ウナギは生のまま食べると感電の危険があった気がする……なんとか無難に調理してもらう方法は。


「……はっ!?」


 某デイリーなサイトに電気ウナギの料理方法が載っていたことを思い出す。


「セ、せっかくの貴重な食材だから、味変してみない?」


「え?」


 僕は急いで醤油とみりん、砂糖を冷蔵庫から取り出すのだった。



 ***  ***


 じゅ~っ


 デカいプライパンの上で、一口大にカットした電気ウナギが美味しそうな音を立てている。


「かば焼きにすることで身が締まるから、ぶよぶよした食感と水っぽさをカバーできるよ」


「なるほど……見た目で警戒されたらダメですもんね」


 うん、そうだね。警戒されるってなにかな?

 相変わらずセリフの後半は言った自覚がなさそうだけど。


「ふふ、涼くんはいろんな調理法を知っているんですね」


 僕の左右をちょこちょこ移動しながら、調理の手順をメモする望月さん。

 めちゃめちゃ可愛いんですが。


「よしっ」


 ぽすん


 一通りメモし終えたのか、僕の横から離れた望月さんは、ダイニングテーブルの椅子に座ったようだ。


「ふふ、昨日は感電して倒れちゃいました。良く効く食材を手に入れても、どう調理したらいいか分からなかったからなぁ」


 望月さんの言葉か聞こえてくる。ちらりと背後に視線をやると、彼女は窓の外を見ており僕に向けた言葉じゃなさそうだ。


「お隣さんが涼くんで良かったぁ……なんかすごく毒に強そうですし」


(ぶうっ!?)


 なんかとんでもない単語が聞こえたぞ。

 思わずツッコミを入れようとしたのだが。


「……これで」


 楽しそうだった彼女の声色が明らかに下がる。


(……ん?)


「パパとママのカタキ。必ずわたしの料理で果たして見せる」


 窓の外はすでに夕闇に包まれている。

 窓ガラスに映った望月さんの表情は、明らかに本気だった。


 じゅ~っ


 電気ウナギの蒲焼を仕上げながら、彼女の言葉を反芻する。


(カタキ……か)


 彼女の事情はよく分からない。


(もしかして、望月さんも)


 普段は封印している苦い記憶がよみがえりそうになり、僕は慌てて頭を振った。


「よし、出来たよ!」


 焼き上がった電気ウナギの蒲焼を、ホカホカご飯の上に乗せる。


「わわ! いい匂い! これならターゲットを騙せますね!」


 ……彼女の全てを知る日は、意外に早いかもしれない。

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