AIとどう向き合うか?
今回、初めて小説の推敲をAIに手伝ってもらって、その絶大な効果を実感した。
AIは私よりもはるかに、文章の構造、問題点を理解する力があると痛感した。
おそらくやり方によっては、自分で本文を書かずとも、小説を書くことは十分に可能だろう。
だが、そこで疑問が生まれる。
そうした場合、AIはあらすじや設定を忠実に読み取り、おそらくほとんどなんの個性もない文章を出力するだろうと思われる。
そのようにして出来上がったものは、はたして本当に自分が書いたと思えるだろうか?
あるいはこうともいえる。
仮に、AIにすべてではなく、部分的に書いてもらうとする。
たとえば、AIが書いた文章を、その意味を残したまま、あなたの言葉で置き換える、などの場合だ。
そのとき、それは本当にあなたが書いたと言えるのだろうか?
私は、それは微妙だと思う。
おそらく、完成した文章を読んでも、なんの感慨もないだろう。
また、私のように推敲のためにAIを使用する場合も、いくつかの問題があるように思った。
AIに指摘を頼む場合、私たちの方でそれを受け入れ、検討する度量や、それに応える力がなければならない(私が体験した、「あなたの文体を損なわずに全文を書きなおす」という提案を思い出してほしい。それにまったく抵抗を覚えないのなら、あなたはおそらく文章を書くことにそんなに思い入れがない人だ)。
今回私がAIを使い、その指摘が正しいと思ったのは、自分だけで推敲をし、そこで散々辛苦をなめた経験があったからだ。
だが、もし自分にそのような経験がなく、執筆経験が浅く、ただ健全に、自分の文章は完璧だとか、そこまででもなくとも、純粋に気に入っていたら、どうなるだろう。
容赦なく欠点を指摘するAIに対して、どこかゆがんだ感情が生まれかねないような気がする。
自分の書くものには何の価値もないだとか、AIを使って全部書けばいいだとか、そういった気持ちが生まれてもおかしくない。
また、そこまでいかなくとも、AIの提示する“完璧な”改善案を見て、自信を失い、ほとんど言いなりのように推敲をして、その結果、できあがったものに対して、自分の作品だと思えなくなるかもしれない。
今回、私がAIの指摘を参考にしながら推敲し、出来上がった原稿がそれでも自分のものだと思えるのは、そもそも最初の初稿は自分一人の力で書き上げたものであり、推敲をするさいも、すべてAIの言う通りに直したわけではなく、なるべく自分のなかにある言葉を選び、異論があればそう主張したからだった。
また、AIがあまりにも的確な指摘をするために、その人にとってなにがいい文章なのか、について考える機会を失ってしまうかもしれない。
推敲で得られる経験は、文章の間違いを直したり、構成について再考することだけではない。
自分がどんな文章が好きで、どんな表現がいいと感じるのかを再確認する機会にもなるのだ。
私はたまたまAIの指摘を正しいと感じやすい作風だが、それが合わない人もいるはずだ。
これらが、私の思う、AIを使った執筆の主なデメリットだ。
では、AIに背を向け、自分の力で書くことこそが、なににもまして重要なのだろうか?
これは判断が難しいが、部分的にはそうだと思う。
自分の頭だけを使って書くことは、作者をなによりも成長させる。
それに、AIがどれだけ文章の理解力にたけ、どれだけうまくかけるからといって、私たち人間が、実際に文章と格闘し、苦しみ、思い通りのものが書けたときの喜びまで再現してくれるわけじゃない。
私たちが文章を書き、本当の喜びを得るためには、逆説的だが、どんな表現が適しているのかという試行錯誤や、続きを書きたいのに、言葉がまるで思い浮かばないなどで苦悩するプロセスが必要なように思える。
ただ、今回の経験で、AIを使うことにはメリットがいくつもあると思った。
まず、それは純粋に小説の勉強として非常に優れていると思った。
AIに書いた文章の欠点を指摘するように頼むと、容赦なく的確な指摘をしてくるから、それを活かすために、私たちのほうがつねに書いた文章をとらえなおし、修正することを強制される。
そして直した文章をさらに投げて、またそれを直していく。
この一連のフィードバックは、プロではないほとんどの書き手たち、一人で書くだけでは到底得られない経験だ。
そこでは、推敲という難しくて、報われない作業が、AIによって、より効率的かつ効果的で、刺激的な作業に変わる。
彼らの指摘を踏まえ、自分のなかの文章観を見直し、そこから新たな表現、構成を考え直す。
それを繰り返すことで、自然と文章を自分の限界以上に引き上げることができる。
私は、小説を書くことは、すでに将棋や囲碁の世界のように、自分たちよりもうまくできる存在がいる、という認識のもとで書かなければならないと思っている。
そしてそのうえで、AIは決して私たちの主人ではなく、強力なアシスタントであることを忘れないでいる必要があると思う。
AIの持つ力が非常に強力であることを考えると、これからは、それを利用することがスタンダードになっていくのだろう。
そうなったとき、AIをどう使うのか、また、自分がどうして書くのか、という意味を考えておくことは、これからますます重要になるのではないだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます