情熱だけソムリエ
月城葵
ワインを語る
ワインとは神が人類に与えた液体の詩だ。
目の前に用意された一本のワイン。
その赤は、夕暮れの空が溶け落ちたように深く、見る者の心を酔わせる。
螺鈿細工のように、見る角度を変えるたび、その表情を変える。
見ただけで酔ってしまう、そんな赤。
どれだけの人々を魅了してきたのだろう。
まるで、下町の夕焼けを三倍に濃縮したような……そこに銭湯上がりの湯気が混ざったなんともいえない赤だ。
そう、コンビニで売ってた赤ワインだ。
次はテイスティングしてみよう。
女性をエスコートするように、優しく繊細なタッチでワイングラスを持ち……。
ここで、焦ってはいけないよ。
丁寧にゆっくりと、ゆっくりと。
豪奢なドレスを着た、美しい貴婦人を舐め回すように……。
グラスを傾けると、琥珀の縁に光が踊る。
ああ、この艶、この粘度――液体の中に時間が眠っているようではないか。
まだ、急いては駄目だ。
顔を近づけ、スマートに香りをかぐ。
様子を伺っているのがバレないように、そんな緊張感で臨むのが好ましい。
香りは……。
この香りはおそらく、陽だまりの丘に咲いたラベンダーと初恋、遠い記憶のノスタルジーが入り混じった芳香。
それはまるで、若い女衆が穏やかな笑みを浮かべ、素足で踏んだかのような香り。
味わいは、たぶん葡萄の味。
口の中で転がせば、その味わいは人生が一本の葡萄棚に帰るのだろう。
口に含んだ瞬間に人生のすべてが許されるような……そんな包容力を持つに違いない。
葡萄が潰れる想像をしたその時――宇宙は静かに拍手を送る。
そして、その雫を飲む者だけが永遠という錯覚に触れられるのだ。
スケールが大きすぎて理解が追いつかないだろうが、ロマンがあるだろ?
それが、ワインだ。
――まぁ、飲んだことはありませんがね。
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