不死身の怪人と奇妙な相棒
@sidemusi
第1話「思考の垂れ流し」~俺様と黒タイツと、頭上のテロップ~
💥起
「いやぁ、ホンマにええ天気やな! 今日はどこの世界で暴れたろか、まっつん!」
赤と黒の鬼の仮面を被った**死蟲(しでむし)**が、パラレルワールドの荒野に仁王立ちし、腕を組んで言った。傍らには、全身黒タイツに深緑のレザーハットという不審者スタイルを貫く相棒、まっつんが、自作のボロボロのオンボロジープにもたれかかっている。
死蟲の頭上には、赤文字でこう表示されていた。
【死蟲の思考:はよ次行きたいけど、まっつんのジープが絶対途中で壊れる予感しかせぇへんわ。まあ、不死身やからええけどな。】
まっつんの頭上にも、同じく黒文字で表示されていた。
【まっつんの思考:あー、腹減った。この世界の女の子はどんな服装なんやろ。可愛い子おらんかな。あと、死蟲の関西弁、いつ聞いても圧が強いわ。】
「なんや、まっつん。さっきから頭の上でチカチカ光っとるぞ。新しい改造か?」死蟲がギョッとしてまっつんの頭上を指さす。
「はぁ? 死蟲こそ、あんたの頭の上に**『俺様は不死身で最強だ!』**ってデカいネロップが出とるんやけど! 自分で書いたんか、俺を陥れようとして!」まっつんが河内弁で捲し立てた。
死蟲はハッと自らの頭上を見上げた。そこには、さっきの赤文字テロップが表示されたままだ。
【死蟲の思考:あ、ホンマや。っていうか、これ、俺様の…ホンマに考えてることやんけ! なんちゅう恥ずかしい! なんやこの術! 誰の仕業や! 絶対しばく!】
「ち、ちがう! 俺様はそんなこと…いや、そうや! この世界は思考が具現化する世界なんや! 不思議やなぁ! ガッハッハ!」死蟲は慌てて笑い飛ばしたが、頭上のテロップは正直だ。
【死蟲の思考:焦りすぎやろ俺様。完全にバレとるやん。】
「ふざけんなや、死蟲! 俺の頭の上にはな、**『あー、昨日の晩飯の焼きそば、ちょっとソース足りんかったわ。』**って出とるねんぞ! これがこの世界の設定なわけないやろ! 思考の垂れ流しやんか!」まっつんがジープのドアを蹴った。
こうして、二人の思考は、テロップとなって頭上に表示され続ける、地獄のような旅が始まった。
承
二人は次の街へとジープで向かった。まっつんの運転は、もちろん荒かった。
「おいまっつん! スピード出しすぎや! 道がデコボコやのに、なんでそんなにアクセル踏むねん!」死蟲が揺れる車内で叫んだ。
死蟲の頭上:【死蟲の思考:このままやと確実に事故る。まあ不死身やから平気やけど、まっつんが死ぬとまた復活に手間がかかるから面倒くさい。】
まっつんの頭上:【まっつんの思考:死蟲がビビっとる。ざまあみろ。つか、このジープ、タイヤが一本パンク寸前やな。直すの面倒くさいから知らんぷりしたろ。】
「何が『知らんぷりしたろ』や! 思考が全部ダダ漏れやぞ、ボケェ!」死蟲は仮面の下で顔を青くした。
「あ、ヤバい! スマンスマン、死蟲! つい本音が!」
その時、道端に一人の女性が立っていた。この世界の住人だろう。茶色いショートヘアで、派手な服ではないが、どこか落ち着いた雰囲気の、可愛らしい女性だった。
キュッ! まっつんは急ブレーキを踏み、ジープは砂埃を上げて停止した。
まっつんの頭上:【まっつんの思考:か、可愛い! ドストライクや! 絶対声かけなあかん! 連絡先ゲットや! 俺はモテる! モテるぞぉ!】
死蟲の頭上:【死蟲の思考:うわ、最悪や。まっつん、鼻の下が地面につきそうな勢いやんけ。あのテロップ、めっちゃダサい。絶対引かれるぞ。】
まっつんは黒タイツ姿にもかかわらず、颯爽とジープから飛び降り、女性に駆け寄った。
「あの! すんません、お嬢さん! 俺、まっつんって言うんやけど、キミ、めちゃくちゃ可愛いやん! よかったらこの世界のこととか、色々…」
女性の頭上:【女性の思考:うわ、出た。全身タイツと変な仮面コンビ。ヤバい人たち。とりあえず、笑顔で無視しよ。】
まっつんの頭上:【まっつんの思考:キタ! この笑顔は脈アリや! やったね、俺!】
死蟲はジープの窓から顔を出し、女性に向かって頭を下げた。
死蟲の頭上:【死蟲の思考:すんません、うちの相方がアホで…。はよこの場を収めて、次行きたい。】
女性はサッと道の反対側へ渡って行ってしまった。
まっつんの頭上:【まっつんの思考:え? なんで? 俺、イケメンやろ? いや、タイツがアカンかったんか? あ、そうか。このハットの色が合ってなかったんや!】
転
完全に落ち込んだまっつんは、街の中心部にある、古びたカフェのテラス席で、ノンアルコールビールを飲んでいた。
死蟲の頭上:【死蟲の思考:ノンアルコールでそこまで落ち込むなや。それにしても、この現象、どうやったら止まるんや?】
まっつんの頭上:【まっつんの思考:さっきの女性の笑顔、忘れられへんわ。このタイツを脱いでたら…いや、逆にタイツだからこそ、俺の個性が際立つはずや。】
その時、カフェの向かい側で、この世界のギャング団と思われる、いかつい男たちが言い争っているのが見えた。彼らの頭上にも、テロップが表示されている。
ギャングAの頭上:【ギャングAの思考:てめぇ、俺のプリン食っただろ! 絶対許さねぇ!】
ギャングBの頭上:【ギャングBの思考:プリン? 知らねえよ! でも、さっき食ったのは俺だ! うめぇプリンだったぜ!】
死蟲は立ち上がった。
「まっつん、チャンスや! このテロップの現象、誰かの術か、この世界のルールか知らんけど、戦って力の源を破壊すれば元に戻るかもしれへん! あいつら、多分この世界で一番強い奴らやろ!」
死蟲の頭上:【死蟲の思考:戦って、不死身流の術を存分に試したい。暴れたい。プリン如きで喧嘩してんの、めっちゃ笑えるわ。】
まっつんの頭上:【まっつんの思考:喧嘩か。また俺の自作武器がぶっ壊れるパターンやな。絶対そうや。でも死蟲が嬉しそうやから、しゃーない。】
「行くぞ、まっつん! 不死身流昆虫忍術、『カブトムシ・アイアン・ボディ』!」
死蟲は叫ぶと同時に、鋼鉄のように体を硬化させ、まっすぐギャング団に突っ込んでいった。ゴォン! ギャング団はあっという間に吹き飛ばされ、カフェの窓ガラスが派手に割れた。
「おい、窓ガラス! 死蟲、弁償やぞ!」まっつんが慌てて死蟲に駆け寄る。
死蟲の頭上:【死蟲の思考:窓ガラスは不死身の俺様には関係ない! ほら、やっぱり戦ったらテロップ消えそうや! ギャング共、もっとプリンのことを考えて怒れや!】
まっつんの頭上:【まっつんの思考:やっぱテロップは消えへんやんけ。俺の作ったプリン破壊兵器の出番や!】
まっつんは黒タイツの懐から、段ボールとアルミホイルで作られた、**『対プリン破壊・対ギャング用ロケットランチャー(手作り)』**を取り出した。
結
「受けてみろ! まっつん特製・『プリン爆発弾!』…の試作一号!」
まっつんがロケットランチャーを発射した瞬間、バシュッ!という情けない音と共に、ロケットランチャーはまっつんの手元で爆発した。火薬ではなく、中に入っていたただのプリンが、まっつんの顔全体に飛び散った。
まっつんの頭上:【まっつんの思考:アカン! また壊れた! しかも、プリンがめっちゃ熱い! 誰か助けて! タイツがベタベタや!】
死蟲は、ギャング団の一人を蹴り飛ばしながら、テラス席の椅子を指さした。
死蟲の頭上:【死蟲の思考:アホや! 相変わらず、最後は自分で壊しよる! まあ、プリンが顔にかかったまっつんは、絵的に最高やから、これでええわ。】
その瞬間、パッと、死蟲の頭上からも、まっつんの頭上からも、そして倒れているギャングたちの頭上からも、全てのテロップが消えた。
死蟲は動きを止め、頭上を見上げた。
「お、消えた! まっつん! 消えたぞ!」死蟲が歓喜の声を上げた。
顔をプリンまみれにしたまっつんも、目をパチクリさせた。
「ホンマや! なんや、勝手に消えよった! 一体なんやったんや…この世の不条理!」
ギャング団のリーダーが、ゆっくりと立ち上がり、死蟲に詰め寄った。
「てめぇら! 俺様のプリンはどうなっちまったんだ! ああ! 誰がプリンなんか食ったんだ!」
死蟲は顔を仮面で隠しながら、冷静に答えた。「俺様はプリンは食ってへんぞ。まっつんが顔にべったりつけてるだけや。それに、お前らの喧嘩、もう終わったで。」
まっつんは顔のプリンを舐めながら、「そうや! プリンは美味いけど、今はそれどころやないやろ!」と叫んだ。
死蟲とまっつんは、騒然とする街を後にし、ジープに乗り込んだ。
「しかし、なんやったんや、あのテロップ騒動は…。」まっつんが運転席で嘆息した。
「知らん。でも、まあ、これで俺様の**『不死身流昆虫忍術・秘密の特訓リスト』**がバレずに済んだわ。危ない危ない。」
ブゥン! まっつんが荒々しくアクセルを踏み込み、ジープはまた荒野へと消えていった。
死蟲は仮面の下でニヤリと笑った。
(あのテロップ、実は俺様の新しい術の試運転やったんやけどな。不評やったから、さっさと解除したったわ。まっつんには内緒や!)
幸い、死蟲の思考は、もう誰にも表示されていなかった。
<完>
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