第弐話・うちのポンコツ死神さん
妖怪―――…… それは、人間たちの負の感情から生まれた存在。
奈良時代ほどから姿が確認され、『日本三大妖怪』と呼ばれる鬼・河童・天狗の三種族を中心に、どんどんと世間に広まっていった。
噂が広まるたび妖怪への恐怖―負の感情は高まり、比例して妖怪たちは力を増大させていく。
―――そして現在。奈良時代から約千年ほどが経った大正時代―――
人間が強大な力を持つ妖怪に敵うはずもなく、この国は―世界は、妖怪たちに支配されていた。
今や世界を仕切るのは力である。力の強いものはそれ相応の権力を持ち、力の弱いものは強いものに支配される。
そんな世界の中で人間たちは、自ら妖怪の支配下に身を置くことで順応し、種を繁栄させていた。
ある村は『生贄』として定期的に人間を貢ぎ、ある者は『花嫁』として妖怪に奉仕し―
その代わりに、様々な危害から守って貰っているのである――。
*
――そして。
「珠紀ちゃ〜ん、お腹すいたよぉ〜。白いご飯が食べたいよぉ〜。」
……この情けないのが、ウチの妖怪さんである。
「あんたがもう少し権力を持ってる妖怪だったら、食べられたんじゃない?」
「私って神様の端くれだった気がするんだけどな……。」
腰ほどにまで伸びた白髪が、春の陽光を反射する。その眠たげに細められた瞳は、たまに吸血鬼が悪戯で月を赤く染めた時のような鮮血だった。
一国のお姫様と見間違うような洋風の外見と、着せられたボロボロの着物とのアンマッチさに思わず笑ってしまう。
まるで
……まあ、黙っていればの話だが。
あと、正直よく知らないが、『死神』と呼ばれる種族で――一応神様の端くれらしい。
まあどちらかと言えば、見た目は吸血鬼っぽい気がするけど。
死神族には「番った相手をあの世に連れていく」とか「残虐非道で冷徹な殺人鬼」なんて不穏な噂が多いので、はじめの頃は警戒していたのだけど……。
「あっ! 見て見て珠紀ちゃん。あの雲、おしりの形してるよ。」
「働け」
常に見ての通りのぼんやり具合だし、実際の死神の事情とかは全然話そうとしてくれないし、で今となってはどうでも良い。
と、言うわけで。
「ちょっと洗濯物を干して来てくれないかしら?」
「え〜、めんどくさいよ〜」
「……旦那様、お願い。」
「んっふふふ……仕方ないなあ、私の花嫁さん♡」
あたし
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