その翡翠き彷徨い【第69話 第一の終焉】
七海ポルカ
第1話
目を開くのも困難なほどの吹雪。
男達は山腹にそれを凌げる洞窟を見つけ、ようやくの思いでそこに逃げ込んだ。
「まったく……魔術師がいないと全くどうにもならんな……」
一人の男が呟く。
彼のパーティは港町マルメからやって来たが、このアルマナ地方に至るまでに四人いた魔術師のうち三人をすでに失っている。
最後に残った魔術師が負傷し、ここで足止めとなったのだ。
「具合はどうだ」
「傷は塞いだが疲労が激しい。ここまで酷使したからな……残念だがこれ以上進むのは無理だろう」
「そうか……」
ここに来るまでに通って来たガルハンナという森では不死者の徘徊が酷く、再び同じ道を帰るのかと思えばそれすらも危うい。
とても進むことを考えれる状況ではない。
自分達以外にもいくつものパーティがこうして北進を諦めたのだろう。
エデン聖教会が送り込んだ救世軍でさえこの北進の旅路を完遂することは出来なかったのだ。
男は地に寝かされた魔術師の側に歩み寄る。
「大丈夫か」
魔術師は瞳を開き弱々しく頷く。
「心配するな。……旅はここまでだ」
他の五人の仲間も男の方を見る。
「俺達の国に帰ろう」
リーダーの言葉に男達はどこか安堵した表情を浮かべる。
ここにいる人間は元々傭兵だったり、故郷が霧によって閉ざされたりなど全員帰る場所が無い者ばかりだ。
それでも彼らは安堵した。
この前を見通せぬ霧に包まれた先を行くよりは見知った大地に戻ることを。
心の中は悔しい。
人の命という犠牲を払いながら折角ここまでやって来たのだ。
進みたい。
男の故郷は今は亡きクレナド王国である。
一夜にして王宮は氷に閉ざされてしまった。
その王宮には近衛騎士団に騎士として属していた男の父親と、
王女に仕える侍女であった末の妹がいて、二人ともが犠牲になった。
もうすでに息絶えていることは分かっている。
……だが凍り付いた王宮の中に遺体は残ったままなのだ。
霧が晴れれば国の為に死んだ者達を弔うことが出来る。
それはクレナド王国に生きた者全ての悲願だが、生きている人間は他の何にも代え難い。
「例え俺達が辿り着けなくても、必ず北嶺に達し【次元の狭間】を閉じる人間が現われる」
男達は頷いた。
「ここに結界を張って後続に繋ごう」
「ひとまずもう少し、吹雪が過ぎるのを待つか……」
「そういえば、ガルハンナで会ったあの二人組は先に進めたのかな」
「あぁ……あの若い二人か」
「人を追ってるとか言ってたけど……これじゃあな」
吹雪の外を見る。
こんな視界の見えない状況でも、この地にはすでに幾つものパーティが入りそれぞれの方角から北嶺サーザンドを目指して攻略を続けている。
願うことは一つなのだ。
男達は道中、不死者に襲われている所を二人組のパーティに助けられた。
一際若い、男女の二人組だった。
すぐに立ち去ったので大した話は出来なかったのだが、一人は聖戦士でかなりの手練だったが、もう一人は弓使いでこっちは少女と形容していいほどに若かった。
だが少女の方も非常に威力のある強い破魔の弓を操っていて、やけに不死者との戦いに慣れている二人だった。
まさかあんな若い二人組が……とは思うが、何故か非常に印象に残る二人組であった。
「……確か……エドアルトとミルグレン、だったか……」
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