オリチャーも実力のうちなんスよね〜
姉妹の悲劇的な再会と、決定的な決裂。そんなイベントを乗り越えた姉は、幽鬼のような足取りで魔神の拠点を歩いていた。
「…………」
「…………」
共に歩む魔神との間に、会話はない。姉は、いかにも心ここにあらずといった風貌で、終わらない思考の螺旋に囚われているようだった。その心境はおそらく、心がまるごと後悔に押し潰されていて、もはや何に後悔しているのか、どこから間違えたのかすら分からない闇の中なのだろう。
そして、隣を歩く神妙な面持ちの魔神の心境もまた、この場と同じような静寂……
…………なわけもなく。
あぁ^~お腹がいっぱいなんじゃぁ^~!
いやね? 実はカトルちゃんが妹ちゃんとぶつかった時に、『愛憎』判定をクリアして結構お腹が膨れたんだよね! 実のところ最近の俺は常に飢餓感に襲われていたので、満たされる感覚は前世以来。この身を包む充実感にとても感動している。
もちろん態度には出さない。今カトルの前で喜んでたらさすがにヤバいからね。というか普通に悲しいし。善性を持った女の子が残酷な真実を知って、育ての親を殺した場面を妹に見られたんだぞ。こんなんで喜んでたらヤバいだろ。俺、めっちゃ心人間だし。
……てか、あそこまで上手くいくとは……俺も裏で結構頑張ってたけど、カトルがあそこまで綺麗に転げ落ちるのは半分くらい想定外だった。
俺はカトルを送り出してからずっと隠れて後ろからついてきていたのだが、まずちょうど心臓を抜かれている子供の中にカトルの知り合いがいたことが想定外だった。それで動揺したカトルが簡単なトラップに引っかかって警報を鳴らしたことも想定外だ。
んで、責任者の神父が教会暗部の護衛つきで駆けつけてきた。魔族なりたてのカトルでは危ないと判断した俺は、こっそりと対処を決意。隠れて機会を窺っていた暗部の護衛を無力化した。もちろん殺してない。俺は心まで魔神じゃないので人を殺したりとかしない。
そしたら会話で時間を稼いで横から仕留めてもらおうという神父の算段がパーになり、結果的に錯乱したカトルに虚しくも殺されてしまった。想定外。それで施設が崩落して真っ先に駆けつけてきたのが妹ちゃんなのも全部想定外。なんだこのガバチャー&豪運は……たまげたなぁ。
「……最初から……あれがあなたの目的だったのですか」
「どういう意味かな?」
カトルちゃんが立ち止まり、生気のない瞳でそんなことを聞いてきた。普通に質問の意図がくみ取れなかったので、聞き返す。
「……言っていたでしょう。よくやった、と。最初から……私を魔族の手先に仕立て上げ、教会を攻撃させることが目的だったのですか?」
「いや、あれは方便さ。あの行いがキミ自身の意思でやったことだと……キミの妹に知られたくはなかっただろう? だから、すべてボクの差し金だと、彼女にはそう思わせておいた方がキミの為になるんじゃないかと思ってね」
「……あくまで、私のため、だと……」
嘘です……妹ちゃんが一番冷静さを失いそうな煽りを口にしてただけです……。でも魔神スティーアのミステリアスクールキャラは凄いもので、それっぽい言い訳がするすると口をついて出る。言ってる俺もそうだったような気がしてくるくらいだ。
「では……ではなぜ、私にあんな……っ、あの……地下施設に……あなたは、すべて知っていたのでしょう?」
「たしかに、大体のことは知っていたね」
転生した直後、俺は運良く親切な魔神……『失恋』ちゃんと出会い、この世界を案内してもらっていた。その時に、王国と教会の闇の部分についても知ったし、この世界に碌な場所がないことも学んだ。だから、カトルの人物像を把握したときに聖騎士の真実を見せるだけで闇落ちするなと確信して、そうなるように誘導した。
……一応擁護(?)しておくと、教会擁するレンゲル神聖王国は住みやすい国である。市民権があれば。魔族への対処はトップクラスに安定しているし、別で軍事力を保有しているから立場も良い。食糧も多いし、教会の精力的な活動によって浮浪児がいないし、なぜか不法移民や常習犯なんかが行方不明になるから治安も良い。総じて幸福度は高い国だ。市民権がある人間に限っては。孤児にはないよ! いや、よっぽど優秀なら養子って形で市民権を与える場合もあるみたいだけど。
まぁでも、いくら民が幸せだろうがそこにカトルちゃんが守りたかった人たちは入っていないんだから関係ないよねぇ。
「ではなぜ……なぜ私にそれを……っ!?」
問いを口にしかけたカトルちゃんを捕まえ、アゴクイして焦点の合っていない瞳を無理矢理俺の方に向けさせる。……ちょっと手を掴もうとしただけなのに、なんでこうこの身体は一々やらしい感じに補正するんだろうか。
「逆に聞くけれど。キミはアレを知らないまま満足そうに死んだり、誇りを抱いたまま聖騎士を続けることの方が良かったと……そう思うのかな?」
「っ……」
俺の言葉に涙を滲ませたカトルは、やがてふるふると首を横に振る。
「いえ……そうは、思いません。私のこの苦しみは、当然の報い……罪を自覚しないままでいることなんて、許されない……」
「そうかい」
「わっ……!?」
まんまと言いくるめられたカトルちゃんを持ち上げ、いわゆるお姫様抱っこで寝室へと運ぶ。
「な、なにを……っ」
「今日はもう休むといい。これからの話は、また明日しよう」
こっから良い感じに誘導するための作戦を考えなきゃいけないしね!
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