落ちこぼれZクラスの賭魔師、デスゲーム魔法学園で命をBETする。
イコ
プロローグ
第1話 僕という人間
門を通った時、僕の心はワクワクしていた。
生きている植物たちが話をして、グリフォンやワイバーンと呼ばれる巨大な魔物たちが空を飛んでいく。
目の前には未知の世界が広がっている。
好奇心が僕の脳を刺激している。
フォル・エルノート、僕の人生がここ、アークリム魔法学園に入学して始まろうとしていた。
大陸にいくつか存在する魔法学園の最高峰に僕はやってきたんだ。
「やぁ、新入生かい?」
「はい! そうです」
「ようこそ、アークリム魔法学園へ。新入生は保護生として、これから三年の間に多くのことを、学ぶことになる。大変だと思うけど頑張ってね」
上級生が爽やかに立ち去っていく。
十二歳である僕からすれば、今すれ違った人はとてもかっこよくて、二十歳まで在学できる八年間が夢のように思えた。
あんな爽やかな先輩たちのようになるんだ。
二十歳で卒業することができれば、本物の魔法使いとして、全世界から認められて、地位も名誉も全てを手に入れることができる。
農家の三男坊に生まれた僕は、平民として一生変わらない人生を歩むはずだった。
だけど、僕には運があった。
魔力を持ち、魔法を使える才能があった。
♢
それからの三年間は、本当に輝かしい日々だった。
才能ある学生たちは千人が同学年として、寮で生活をして、寝食を共にして、一般教養、礼儀作法、ダンス、魔法を学んでいく。
農民として学校にも行ったことがない僕は、どの項目も初めて触れるものであり、全てが苦手だった。
一般教養では、文字の読み書きや計算を学び、大陸の歴史や魔法使いたちの歩みを知る。
礼儀作法では、世界各地の王族や種族に合わせた礼儀が異なるために、それらを全て叩き込まれた。
ダンスも同じだ。貴族や王族は社交界で、ダンスを踊り、芸術を嗜み。必ず一つは楽器が弾けるというのだ。これも教養なのだ。
そして、もっとも学びたかった魔法。
生まれながらに才能がある者は、魔法の覚えも早くて、魔力の総量も多い。
何よりも、才能というのは生まれながらに決まっていた。
貴族の家系は、元々魔法への適性が高い。また、魔法使いとして認められた存在を両親に持つ者は、生まれながらに魔力を持って、魔法に触れて生きてきた。
僕は全ての項目において落ちこぼれだった。
「おいおい、見たかあいつ」
「見た見た。三年間何を学んできたんだろうな?」
「ああいう奴が本当に魔法使いになれるのか?」
「無理に決まっているだろ」
陰口を叩く同級生たち。才能なしである僕に友達と呼べる人はいない。
一般教養では常に赤点。
礼儀作法も一向に覚えられない。
ダンスではパートナーの足を踏んで、リズムも間違えるので、踊ってくれる女性もいなくなった。
唯一楽器は、トランペットだけは弾くことができた。ただ、誰もセッションはしてくれない。
魔法に関しても、魔力総量が少ないために、六大基礎魔法のうち、四つまでしか使うことができない。
アークリム魔法学園始まって以来の落ちこぼれ、それが僕だ。
♢
「なぁ、なんでお前、アークリム魔法学園にいるんだ?」
こんな落ちこぼれに、話しかけてくれた。
彼のそんな問いかけに僕は考えてから応えた。
「僕はここを卒業して、偉大な魔法使いになりたいんだ」
「バカなのか? なれるはずがないだろ? 普通の勉強もできない。礼儀作法もままならない。魔法すらまともに使えないのにどうやってなるつもりだ?」
彼の問いかけは正しいと思う。僕は勉強があまり得意ではない。だから、いつも人が考えないことばかり考えていた。
「運かな」
真面目に答えたつもりだった。だけど、問いかけた彼は心底バカにしたような顔で、僕を見ていた。
「なら、お前は一番最初に死ぬな」
「えっ?」
「もうすぐ俺たちは四年生になる。知らないのか? このアークリム魔法学園の真実を?」
彼は、こんな僕に問いかけてくれて、親切な人だと思う。
だけど、僕は彼が何を言いたいのか全く理解していなかった。
「なら、わからないまま死ぬ方が幸せかもな。じゃな、フォル・エルノート。四年生になればクラスが発表される。お前と俺は別々のクラスだ」
「そうなの?」
「当たり前だろ? 俺は成績も魔法も平均以上だからな。お前は最底辺のZクラスだ」
「Zクラス?」
世界が変わる瞬間は、あまりにも静かに訪れる。
何も雷が落ちた時や、地震に襲われた時、火事で家を失った時などの不幸な時ばかりじゃない。
目の前で時計の針がカチッと音を出して、逆に回り出したり。鏡の中に何重にも広がる世界が見えたり、教室の机が勝手に動き出して透き通った魔法使いが目の前に現れた時にだって世界は変わるんだ。
『まずは、四年生へ昇級おめでとう。私は学園長のイビス・ガラハ・ディールだよ』
学園長先生、いつも深々とフードを被っていて顔が見えない。男なのかも女なのかもわからない声で話し始めた。
『君たちの保護期間は終了した。ここから先は、
セレクションゲーム? 僕は授業で聞いた言葉を思い出す。
アークリム魔法学園では、三年生までを保護生と呼んでいる。
そして、四年生からを選別生。
卒業までの期間、アークリム学園が用意した試験を受けて、選別されていく生徒たちという意味だ。
『アークリム魔法学園が誇るダンジョンの第一階層を開放する。どうか多くの才能ある若者よ。力を見せてくれ』
血と金属と、焼けた匂い。それは窓の向こうに見えていた。
魔物が魔物を襲い、人を喰らっている。
『新たに四年生になった諸君らには、最初の試験を受けてもらう。もちろん、全員参加だ。攻略報酬として成績ポイントが付与される。さらに敗北者は……そうだな。今回は、わかりやすくしよう』
声が、少しだけ楽しそうに弾んだ気がした。
『敗北者は、すべての所持魔道具と、自由行動権を没収する。以後、勝者の指示に従う奴隷として扱われる。つまり、誰か一人と必ず戦ってもらうよ。もちろん魔物に殺されるような弱者は試験不合格だからね』
「……奴隷」
自然につぶやいていた。
僕は、ゆっくりと立ち上がった。心臓は速く打っていた。怖い。
でも、これまでぼんやりとモヤがかかっていた頭の中は、不思議と冴えわたって行く。窓の外のダンジョン化した廊下。クラスメイトの表情、視線の向き、額の汗の量。
その一つ一つに、ワクワクしていた。今から、絶対に楽しいことが始まるんだ。
♢
目の前で、同級生の肩が噛みちぎられた。
骨の砕ける音はパンをちぎるみたいに、簡単に。
「ぎゃああああああっ!」
血が、廊下に線を引いて飛び散る。赤いインクをぶちまけたみたいに、さっきまで見慣れた石畳を汚していく。
黒狼。
背の高さは大人の胸くらい。目が三つ。牙が二列。尻尾の先だけ、蛇みたいに別の生き物がついている。
それが、同級生の首筋に鼻先を寄せて、ひと舐めした。
「……すごい!」
ついさっきまで、教室だった。
なのに今は、天井は裂けて、壁はひび割れて、床のあちこちに魔方陣が浮かび、その真ん中から、生き物じゃないなにかが、次々と生まれてきている。
世界が、一分前とは違う顔をしている。
『第一階層が完全に解放されたよ』
学園長の声が響いてから、全てが変わった。
「フォルッ!」
いつも僕に話しかけてくれる彼が隣にいた。
「どうしてここにいるの?」
「バカ?! だからあれほど危ないって話しただろ?」
黒い狼の三つ目がこっちを向いた。
彼が声を出したからだ。僕らが標的に定められた。
逃げないといけない。頭ではそう思ってるのに、足が床に縫い止められたみたいに動かない。
膝が笑ってる。心臓が、耳のすぐそばで鳴ってるみたいだ。
血がぽたり、と床に落ちる音が鮮明に聞こえる。狼の爪が石畳をひっかく、誰かの嗚咽。誰かの吐き気。どこかの教室のガラスが割れる音。
そういう、どうでもいい音のひとつひとつが、ここから先は戻れない現実だと知らしめていた。
「フォル! 逃げるぞ!」
彼は押し殺した悲鳴みたいな声で、僕の腕を掴む。だけど、それは一瞬で、彼の後方のクラスメイトが肉塊に変わる。
「っ……!」
獲物を捕食する魔物にスキができる。不思議だ。身体が勝手に動く。学園で魔法を使う際に支給される杖を持って、反射で振り上げる。
「《ファイアボルト》!」
舌がもつれそうになる。何度も何度も練習した、初期に習う火の基本魔法。
いつもは、ろうそくの火を移すのがやっと。それなのに、今、杖の先に生まれた火の塊は、僕の知ってるそれより少しだけ大きかった。
飛びかかってきた黒狼の目を突いて、赤い光がぶつかる。
「ガッ!」
鈍い悲鳴。獣の毛が焼ける匂いが、鼻の奥を刺した。黒狼は、確かに一瞬よろめいた。でも、その足取りはぜんぜん止まっていない。火傷なんて、かすり傷みたいなものだ。
「何してんだよ!?」
怒りを僕に向けている。
距離が、ゼロになる。この瞬間だけは、なぜかゆっくり見えた。
狼の口が開いて、牙の列の奥で、赤黒い舌が蠢く。
怖い。死ぬ。嫌だ。頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。だけど、そのぐちゃぐちゃの奥で、別の声がひょいっと顔を出した。
今、さっきの火が、ちょっとだけ効いてる。目が焼けてる。真ん中はまだ見えてない。
だったら……賭けようか? 自分でも嫌になるくらい、場違いな考えだった。
勝算は、たぶん三割もない。普通に避けた方が生き残る可能性は高い。でも、避けて生き残って、この後どうする? ここはもう、「逃げてるだけ」で何とかなる場所じゃない。
誰かを倒して、勝って、奴隷にして、そうしないと階層からも出られないって、さっき声が言ってた。
生き残るために、勝つしかない。だったらすることは決まっている。
「……っ!」
僕は、横に跳ぶのをやめた。前に出た。
「おい! バカなのか?!」
彼の声が聞こえた。自分でもバカだと思う。でも、黒狼の真ん中の目は、さっきの火で白く濁っていた。
飛びかかってくるタイミングが、ほんの少しだけズレている。
その半歩分のズレに、全部を突っ込む。胸の前で杖を横に構えて、自分から獣の懐に潜り込む。牙が、頬のすぐ横をかすめて通った。熱い線が走る。血の匂いが、急に自分のものになる。
「~~っ!」
叫び声が喉まで込み上げたけど、噛み殺した。
杖の先を、黒狼の喉もとに押し付ける。
「《ファイアボルト》ッ!!」
二発目。杖を僕を食べようと口を開けた黒狼に突き刺して、思いっきり魔法をゼロ距離で放った。
魔力を全部ぶち込んだ。火が、爆ぜる。視界が真っ赤に染まって、耳がキーンと鳴り響く。獣が焼け焦げる匂い。肉が弾ける鈍い音。飛んできた何かが、頬と首にベチャッと張りついた。
黒狼の巨体が、僕にのしかかってくる。
「ぐっ……!」
肺から空気が全部抜けた。地面と獣のあいだに挟まれて、肋骨がミシミシ文句を言っている。
彼が獣の死体を必死に押しのけてくれた。重さがどいた瞬間、僕は大きく空気を吸い込んだ。胸が痛い。頬も、首も、焼けるように熱い。
でも、まだ、視界はある。
「……っは、は……生きてる……?」
「スゲー! スゲーよ。フォル」
黒狼は、喉を内側から焼かれて、もう動かない。目玉が一つ、床に転がっていた。さっきまで同級生を噛んでいた口が、今はただの肉塊になっている。
膝が勝手に笑って、その場にへたり込みそうになる。
怖かった。今も怖い。手なんか、震えすぎて杖を落としそうだ。
なのに、口の中だけ、妙に甘い。
喉の奥が、熱でざらざらしているのに、なんだか、笑いたくて仕方がない。
「最高に気持ちいい」
感想が口から漏れ出た。
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あとがき
どうも作者のイコです。
本日からお昼12:00に更新します。
頑張って書いていくので、フォロー、☆、♡をしていただけると嬉しいです。
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