03話 自警団とは

「しっかりしなさいリオちゃん!! あいつとどんな関係を持っているのかは私たちは知らないけれど、この程度で心を動かされるなんてリオちゃんらしくない!!!」

「エリカ……」


 カラスの反応で現状、自分自身でもよくわからない心情に陥っているリオは、急に暗い表情になってしまう。その表情をちらっと見たジニアは、「はぁ……」とため息を吐き、リオの両頬を両手で引っ張った。


「いてっ……いててて! 急に何してんだよジニア!」

「お前がしみったれた顔してるからエリカも俺も心配してんだよ、少しは友達を頼れバカ」

「……悪かったよ、お前ら」

「ほおら、ま~たしみったれた顔してる!」


 そう言ったあと、ジニアはリオの顔をおもいっきりビンタをした。


「わあ……ジニアちゃん、容赦ないわね」

「こいつがわけわかんねぇ顔してっからイラついたんだよ、しょうがねぇだろ」


「ピピピピビビビビ……」という不思議な音が至る所から聞こえ始める。そうこの音は"管理官が来る"と周りに知らせる音。

 作業帽につなぎを着ている男たちがリオたちを囲むように通る道を塞ぐ。


「は? あ?」

「誰だよこいつら」

「お前らだな、この騒ぎを出した異種族は。種族はなんだ、答えろ」

「種族? なんでそんなことお前に言わないといけないの?」

「そうよ! 私たちがどんな種族だろうがあなたたちには関係ないはずよ」

「口を慎め! お前らが俺たちに口答えをすれば自警団に報告するからな!!」


「じけいだん……?」


 ――この街には自警団というのが存在する。創設者はハーフエルフであるツバキ=ヒューマン、そしてユラ=ヒューマン、そして、キツネの獣人であるタルト。この3人が創設したギルド「ルーチェ」内の自警団は、どんな現場でも、どういった修羅場な現場でも、必ずと言っていいほど絶対に解決をするスペシャリストなのだ。


「こいつら、自警団って奴に何でもかんでも頼ってる無能共の集まりか?」

「自警団ってあれだろ? 問題毎とかを解決する奴らのことだよな?」

「なるほどね、つまりあなたたちは問題毎が起きれば、その自警団という集まりに要請をして、あなたたちはなーんにもしない無能ちゃん。っていう訳ね?」


「何をォオオ!?」


 頭に血が昇り始めた管理官の上官は、直ぐにスマートフォンを手に取り、誰かと連絡をしようとしていた。


「ほぉら、それで逃げるんだ」

「自警団に報告しないとなんにも出来ない」

「無能以下の存在ね、それで管理官の上の立場なの?」


 にんまりとした表情で平然と他人の心を読むエリカたち。その光景を見ていた下の立場の人間はこそこそと話し始めた。


「おい、こいつらただもんじゃねぇぞ」

「人間? いやエルフ? ハーフエルフでもない、あいつらは読心術なんか使えない」

「じゃあ獣人か?」

「獣人にしても耳が生えてない!」

「まさか、あの例の奴らと同じ…………」


「きっこえてんだよなああああ!! お前らの小さい言葉も、お前らの心も、お前らの思考も、ぜーんぶな。筒抜けなんだよ、間抜け共!!!」


 腕を組みながら再度にんまりとした表情を浮かべながらそう言ったジニアに、リオはエリカに「俺たちって思考とか心、読めたか?」とぽつり。


「いいえ、私たちでさえそこまでは読めないわよ」

「ジニアの奴、盛ったな」

「まあいいじゃない、それで彼らが引いてくれるのなら」


「やばい、ほんとにやばいぞ」

「上官! こいつらはもしかすると例の」

「はぁ!? この恥知らずがあいつらと同じ一派だと言いたいのか!!」

「そうとしか思えないです……!」


 作業帽を外し「だああああもう!!」と片手で髪をわしゃわしゃさせながら言葉を発している上官は、「もういい! お前らのことは然るべき対処をする! わかったな!!」と視線を向けそう言った。


「どうぞご勝手に」

「くそっ! 行くぞ、お前ら! あ、そうだ、あれやったのはお前だよな」


 くるっと後ろを振り向きながらカラスとスズランとの戦闘をした有様をリオたちに向けて指差す。


「ああ、あれは俺らがやったよ、それがなにか?」

「そうかそうか、一旦この事については自警団に報告させてもらうからな」


 そう言うと上官は辺りに散らばった結晶や建物の粉砕跡、重力を変動させた形跡を調べ、計測した後、部下を連れて来た場所を戻っていった。


「上官、“あの方”たちに言わなくていいんですか?」

「“あの方”たちに言うまでもない、これは「自警団」と、「俺たち」の問題だ」

(まぁいつかこの件は、“ゼウス様”のお耳に入ると思うが……)


 ◇


「お前、盛ったよな」


 ニッと笑みを浮かべながらリオはジニアに向けてそう言った。


「あぁ、盛った! 別にいいだろ? あいつらは俺らが吸血鬼だって分かってなかったみたいだし、読心術もなんで使えるのか分かってなかったみたいだしさ」

「盛りすぎも駄目よ? ジニアちゃん。結構ジニアちゃんが盛ってくれたおかげで退いてくれたのはありがたいけれど、あれで警戒心が増して私たちに事情聴取してくる可能性もあったんだから……次からは気を付けてよね」

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