第3話 魔法の物理法則

朝起きて、顔を洗う。


「月夜さん、おはよう。」

「おはようございます、四条くん。ご飯ならできてますよ。」

「あー、ごめんね、先に起きてもらっちゃって。」

「いえ、これは癖のようなものなのであなたが気にすることではありません。」


どうやら紗奈は早起きがナチュラルらしい。


「ありがとう。いただきます。」

「どうぞ。」

「おいしい…まさか味噌汁が食べられるとは。」

「あーそれですか。そうですね。たしかにその味噌風味を出すのは苦労しました。」


まあその話はいったん置いておいて。


「えーっとね、今日は風刃ウインドカッターも使えたしこの家の結界一層目から出てみようと思うんだけど、どう思う?」


世界の管理人さん、ご丁寧にも結界が四層ほどに分かれていて、家の周り、次にFランクの魔物のみが入れる結界が張られているのだ。


「いいんじゃないですか?たぶん結界の近くの魔物は弱いでしょう。ただ、私もついていきますよ。」

「え?なんで?危ないよ。」


さすがに月夜さんを連れて行くのは許容できない。いくら何でも危ないからな。


「私だって自衛くらいはできます。それに、もし四条くんが死んでしまっては私がここに一人ということになってしまい、徐々に衰弱して死ぬだけです。」


「うーん、しかたないか。確かに月夜さんもある程度強くないと大変だしね。」


できるだけ安全策を取りながら進んでいくしかないか…


「じゃあ、僕から離れないでね。」

「わかってます。」


家の扉を開けて外に出る。そのまま進んでいき、結界の外まで歩く。

まずは弱い魔物からだよな…


「うおっ」

「ひいっ、かわいくないですねあのウサギ…」

「あれはどうやらホーンラビットだな。Fランク、まあつまり魔物の中で最弱だ。あの額に生えている角で攻撃してくるらしいが…先手必勝。風刃ウインドカッター


圧縮された空気の刃がとんでいく。


ザシュッ


ホーンラビットの首がきれいに落ちる。


「ちょっとグロいな。」

「そうですね。気分も全然よくはないです。」


だが、そうもいっていられない。これはなんどもいろいろな魔物を倒しながら慣れていくしかないだろう。


「じゃあ次は月夜さんも狩ってみて。」

「はい、いいですよ。」


手ごろな魔物を探すと、近くにスライムがいた。


「そこにいるスライムでいいんじゃね」

「そうですね。スライムはものによっては女性の敵ですし。火球ファイアボール

「そこなの…?そんな冤罪で倒されるスライム…」


確かに、服だけ溶かすスライムが女の敵であることは否定できないがそもそもこの世界でのスライムはそんなことをしないし、少しスライムに同情してしまう。


「うん、この程度なら倒せそうだね。じゃああとはこの家から50メートル以上離れないようにして適当に狩ろうか。50メートルの結界から出ないでね。」

「ええ、もちろんわかっています。では、後ほど。」

「気を付けてね。」

「あなたこそ。」


おそらくこのぶんなら結界の外に出なければ安全だろう。

さて、僕も探索をしていかないとな。あとは食料か…ホーンラビットでも狩っていれば大丈夫だろう。


風刃ウインドカッター


目についた魔物を片っ端から狩っていく。一応解体もしておいたほうがいいかもしれない。月夜さんはまだあまりグロに慣れていないようだ。

…そんな簡単に慣れられてもそれはそれでおかしいのだが。


「四条さーん、そろそろ帰ってきてくださーい。ご飯にしますよー。」


どうやら俺が魔物を狩っている間にかなりの時間が経ってしまっていたようだ。月夜さんは先に家に戻ってご飯を作ってくれていたらしい。


「ありがとう、月夜さん。今帰るからちょっと待って。」


ちょうど倒したホーンラビットを解体して袋に詰め、立ち上がる。

林のほうから家へとあるいて帰り、食卓へ着く。


「いただきます」

「お疲れ様です四条さん。どうぞ召し上がれ。」


月夜さんのおいしいごはんを食べながら、魔法について考えてみる。恐らく、魔法にも物理法則は適用される。魔法は魔法として何かの現象を起こした時点でそれ以降は物理法則が関係してくるのだ。だから僕は昨日最初は風刃(ウインドカッター)ができなかったのだ。


▨▨▨▨▨


「うーむ、何がいけないんだろう。」


僕が放つ風刃は空気を高密度に圧縮したものだ。風圧の差で刃として機能するはずなのだが…


「風圧の差?じゃあ…」


もう一度風刃をうつ。だが、今回は…


スパッ


木が切れて、斜めにズレた。

今回は空気を圧縮されるだけじゃなくその周りを真空状態にした。


「よし、できた。あとは、雷か…」


雷は空気やそれに含まれる水蒸気のぶつかり合いによる静電気が集まったものだ。


バチッ


空気が焦げて、指先から三センチほど電気が流れる。増幅した静電気を狙うところに陰極をつくることで指向性を持たせたのだ。


「でもなぁ、これだとあんまり攻撃力もないし、時間がかかりすぎる。」


雷自体に攻撃をさせるのではなく、電気によって誘導したもので攻撃してみるか。これはこれでロマンだ。電気が流れるものは…やっぱり鉄かな?


「でもま、まずはこの電気を40cmくらいは伸びるようにしないと始まらなね。」


「四条くん、そろそろ昼ごはんです。早くしないとあげませんよ。」

「あ、はーい。ごめんごめん。」


「いただきます。」

「どうぞ召し上がれ。」


「まったく、かなり集中してましたね。何をやっていたんですか?」

「ああ、実はさっき風刃を飛ばせるようになったんだ。」

「お〜、成功したんですか。」

「うん、空気の周りに真空の部分を作ったらできた。」

「へ〜、ちなみに私も火球ファイアボールできましたよ。」


うーん、先にできるようになったと思ったんだけどな…


「なっ、いつのまに?くそ〜先に習得してやろうと思ったのにな。」

「フフフッ負けませんよ?」

「ハハハッ調子づいているのも今のうちだね。」

「負け犬さんが何か言ってますね。」


月夜さん結構辛口だな。でも最初より打ち解けてきたってことだしいいことだろう。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る