液化人種観察録

扇風機すずし

1 液化人種あるいは「油田」について


かつて世界を席巻し、人類を窮地に陥れた病があった。

名を「液化症」という。


文字通り身体が液状に融解し、それに伴って自己同一性、いわゆる「自我」をも消滅させてしまう恐ろしい病であった。


各国はこれの対処に追われた。人々は身を守るために、自ら閉じこもっていった。

「自我を有らしめる」ことが予防、治療に有効とされ、人々の意志や倫理も、その傾向に流れていった。


しかし、少数ながらこれに反駁する人々、ないし、国が現れる。


どんな時代でも一定数、このように「奇特」な者たちが存在する。

彼らは一時、陰謀論者として、気の狂った人々としてもてはやされ。

だが、パンデミックの終焉、流行の終わりとともに忘れ去られた。


十数年後、ある調査隊が洞窟の奥にオパール色の泉を発見する。

研究の結果、これは液化症に伴って発生する、融解した肉体と同様の性質を持つことが判明。

世界連合はこれを「油田」と名付け、石油に代わる資源としての本格的な採掘に乗り出した。


……その後は、歴史に語られる通りである。

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