第19話 聖男、馴染んだかけ合い ※一部ルシアン視点

「次はちゅーしてもらうんだからね!」


 あれから度々ルシアンからご褒美のちゅーを求められるが、僕はずっと拒否していた。

 だって、小さいころのルシアンを知っているのにそんなことはできない。


「大きくなったらね!」


 由香のおばあさんのことで改めて考え直そうとは思ったけど、やっぱり今のルシアンはまだ子どもだ。


「約束だからね!」


 そう言って、ルシアンは拗ねた顔をしていた。

 この掛け合いがここ最近の馴染みになりつつある。

 このままだと次に来た時はすぐにちゅーを強請って来そうな気がする。

 今回は一番初めに一緒にお風呂に入ったぐらいだし……。


「そんなことよりも準備はできた?」   

「たくさん荷物も持ったし、本と辞書もあるよ!」


 前回に引き続き荷物を用意したが、今回はルシアンに必要なものを準備させた。

 薬関係はあまり使っていないから残っているし、本に関してはここまで日本語が理解できたら、何が必要になるのかわからない。

 初めはパソコンを欲しがっていたけど、さすがに持っていっても検索はできないからね。

 それにさすがにパソコンは高すぎる!

 我が家はテレビの代わりにパソコンが活躍しているから、僕の部屋には何もなくなってしまう。

 その代わりと言ってはいつも通りだが、たくさんの本と使わない電子辞書を待たせた。


「みにゃと、ちゃんとお花に水をあげてね!」

「それはルシアンも同じだよ」


 ルシアンはさつまいもの苗やじゃがいもの種芋以外に、いくつか野菜や花の種を買っていた。

 一年でどれぐらい育つか実験するらしい。

 そして我が家にもプランターを用意して種を植えた。

 正直、これから冬になるのに花が咲くとは思えない。


「じゃあ、行ってくるね! 次はちゅーだよ!」

「大きくなったらね!」


 また念押しに一言告げてから、ルシアンはいつものように自分の世界に戻って行った。

 何度も行ったり来たりを繰り返しているが、本当にどういう仕組みなんだろう。

 あっちの言葉なのはわかってるけど、うまく呪文も聞き取れないんだよね。


「そういえば、合鍵渡したままだった……」


 財布は使わないから置いておくと言われたが、首にかけたままの合鍵をそのまま持っていってしまった。

 無くさないか心配だが、こっちの世界でなくならないのであれば問題ないはず。

 賃貸アパートだと退去する時に問題になるからね。





 楽しい時間は一瞬にして過ぎてしまった。


「おかえりなさい、ルシアン様」

「ああ、こっちはどうだった?」


 僕……いや、俺がいなかった半年のことを部下に話を聞いていく。


「今のところ何も気づいていないかと思います」

「それならよかった」


 俺はいなくなって半年の間、部下に自分の仕事を任せていた。

 って言っても孤児を集めただけの単純なことだ。


「それにしてもたくさんの荷物を持ってきましたね」

「これで食料問題が解決すればいいけどね」


 湊の世界は食べ物がたくさんあり、色んな文化が発達していた。

 それを当の本人たちは当たり前のように過ごしていたが、俺から見たら驚くことばかりで有意義な時間だった。

 今回持ち帰ったのはその中でも食料に関するものが中心だ。

 我が国では魔素の影響で土地が痩せてきている。

 その結果、国中で食料不足となり、孤児が増えて問題になっている。


「じゃあ、今から植え方を教えるからみんなでやるぞ」


 俺は率先して孤児たちを誘導する。

 貴族である俺たちは自身の領地で各々対策に追われているが、何も解決していないのが現状だ。

 体の傷が減ってきたのはその証拠だ。

 真ん中のクズの双子は学園に通っているし、長男と次男はその問題で追われているからね。


「みんなで生きる残るぞ!」


 湊みたいにちゃんとした言葉を投げかけることはできない。

 ただ、学んだことを伝えることはできる。

 俺は残された孤児を鼓舞して、何をしてでも生きてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る