第21話 逮捕、そして首領戦争へ。
警察病院から市民病院へと転院した皆家のもとに、昴が訪れた。
彼女は皆家の手を握る。不安で手がかすかにふるえていた。
「あなたが無事で良かった」
「すまない……悟を助けられなかった」
「ううん。あなたはよくやってくれた」
「そうかな……」
「そうよ。だから自分を責めないで」
皆家は彼女にあるものを手渡した。
それはマルボロの煙草。
渡された彼女は呆けてしまう。
「……どうして、これを?」
「預かっていて欲しいんだ。君に。この『呪縛』を」
「……そっか。あなたにとってこれは呪いだったんだね」
煙草に頼って大人のふりをするのに疲れてしまったのだろう。彼は。
もう彼を楽にさせたほうがいいのかもしれない。
見栄や虚勢を張る世界では、彼のような人間は似合わない。
本当は初めからそうだったのだ。
「分かった。預かっておく」
彼はそこで笑顔を見せた。
昴は複雑な心境に蓋をして、病室を去った。
帰宅の最中、彼女は坂城に連絡を掛けた。
「彼に煙草を渡したのは間違いだったのかもしれない」
「……どうして?」
「そもそも彼をこの世界に誘ったのが間違いだったんだよ」
「そうか? 奴の眼はまるで獅子のごとく気概に満ちていた」
「じゃあ、なんで彼は警察に捕まったの? なんで悟は殺されたの? 教えてよ!」
「……少し落ち着け。仲間が傷付けられて興奮しているのは分かる。お前は優しいからな。でもな、俺たちはこうするしか生きられないんだ。それは分かるだろ?」
「……」
「悟もきっと後悔はしていないはずだ。皆家だって兄がヤクザでこの選択肢しか無かった。だがそれを後悔した素振りは見えない。それが真実だ」
「口がうまいね」
「皮肉を言えるぐらいには回復したようだな。頑張れよ。昴――」
彼女はそこでようやくクスリと笑った。少し鼻声の、微笑で。
「下の名前で呼ばないで」
神奈川県の一等地に天照廻のオフィスはある。
そこに朝早く、刑事の集団が訪れた。
「轟を出せ。署で事情聴取を取る」
すると組員がメンチを切る。「令状を持ってからもう一回来い。来れるもんならな」
「もう逮捕状は出ている。三名の被害届が出ているからな」
「なんの罪だ」
「麻薬の販売だよ」
十時三十二分。轟は麻薬取締法により逮捕。神奈川県警によって連行された。
その後、歌舞伎町の防犯カメラを照合された結果、川田悟殺害の容疑者としても再送検されることになる。
市民病院を退院した皆家。彼は出迎えてくれた昴に笑顔を向けた。
そして――
「煙草一本いる?」
彼女の問いに、逡巡したあと皆家は頷き煙草をくわえた。
火を点けてもらい、昇る副流煙を見つめる。
「俺はこの世界で生き続けるよ。それが、死んだ悟に報えることだろうからさ」
その最中、阿賀嶺高校は首領戦争が勃発していた。
悟に代わる、新たな番長を作るための、争い――
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