第16話 大事な女

 夕焼けの空を背に昴と皆家は歩いていた。

「ねえ。今日の夕飯は何かな?」

「えっと、母さんが今日は検査入院だったはずだから、出来合いのもので済ませようかなって思ってるけど」

「そっか。だったらさ、外で夕飯食べない?」

「うん。別にいいけど。どこがいいかな?」

「学生の腹が満たされて、イタリアンに和食に洋食まですべてがそろっている場所があるよ」

「まさか……」

 そう言われて連れていかれた場所はやはりファミレスだった。

「ここは私の奢りだから」

「おう。じゃあ頼んだ」

 それぞれ食べたいものを店員に注文し、しばし待つ。

「ねえ、皆家君は好きな人っていないの?」

「好きな人か……」

「なんでそんな苦虫を嚙み潰したような顔をしているの?」

「いや、恋愛にトラウマがあるっていうか」

 すると彼女が身を乗り出してきた。

「どんなトラウマ?」

「そんな面白い話じゃないんだがな……まぁいいや。幼稚舎からの幼馴染でさ。すごく可愛い子だった」

「ふーん……」

「でも兄が道を踏み外したことでその子とは疎遠になったな」

「そっか……」

「――なんか君さ。ちょっと違うよね」

 昴は小首を傾げた。

「なに? ちょっと違うって?」

「普通のギャルとは違うというか。不思議だなって」

 それを聞いて噴き出した昴。

「なにそれ。褒めてんの? ああー、おかしい」

 彼女は届けられた料理に手を付けそれからにこりと微笑んだ。

「美味しいね」


「ありがとうございました」

 ファミレスから出た皆家と昴。

 彼女は少し顔を赤らめながらそっと皆家の手をつかんだ。

「どうした?」

 少し考えて、彼女の赤らんだ表情の意味を大体は察した。

「やっぱり君はギャルだね」

「ねえ……この近くにさ。その、あるから」

 こうなればやるしかない。でもその前に自分の思いを伝えたいと思った。

「俺さ。お前のこと好きだ」

「へ?」

「その……そういう行為の前にちゃんと言葉にしたいと思った」

 昴は微笑んで皆家を連れて全速力で走った。


「私も大好きだよ」

 

□■□


 ラブホテルでの天井はシーリングファンが回っているのは本当らしい。

 カーテンを開けると朝日が射しこんできた。

「うん」

「あっ、起こしたか?」

「ねえ、もう一回する?」

「しない。学校だろ」

「けちんぼ」

 二人して制服に着替えて煙草に火を点けた。

 もうすっかり火を点けることが癖になっている。毒されている証か。

 ただ、嫌な気はしない。

 そんな風に一服をしていたら連絡がかかってきた。

「はい。もしもし」

「俺だ。豪だけど。悟が連れ去られた。すぐに来れるか?」

 煙草を灰皿に潰す。

「ああ。すぐに行く。三丁目でバイク付けて待っていてくれ」

「分かった」

 彼女のほうをちらりと盗み見る。

「昴が横にいるんだが伝えたほうがいいか?」

「なんでお前の隣にいるんだよ。……まぁいいや。伝えてくれ」

 通話を切ってベッドから立ち上がる。

「ちょっと行ってくる。悟が連れ去られたらしい」

「えっ、そうなの……」

「ちょっと待っていてくれるか」

「……私も行く」

「…………駄目だ」

 昴がこちらを睨みつける。

「女扱いしないでよ」

 そんな昴の口を唇で塞ぐ。

「んっ」

 彼女は一瞬でのぼせたようだった。

「それは無理だね。だって俺の大事な女だからさ」

 

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