第14話 別班
「ただいま」
皆家が帰宅すると昴がにこやかな表情を浮かべながら玄関にやって来た。
「お帰り……って顔怪我してるじゃん!」
自身の頬を触る。呆けながら、「別に大丈夫だよ」と答えるも問答無用で応急処置をしてくる。
絆創膏を鼻筋に貼ってくれる昴。
「これでよし。ったく、猫じゃないんだからどこで怪我してくるのよ」
「ちょっと喧嘩吹っ掛けられてさ」
昴は正座に佇まいを直して真面目な態度をした。
「どういうこと?」
彼女に官庁独立部隊の話をしてもしょうがない。
……というか、官庁独立部隊ってなんだ?
字面だけ見ても中二病くさいな。
「気を付けてね。前のLSD事件のせいで君も不良たちに目をつけられているんだから」
皆家は冗談っぽく肩をすくめた。
「ありがとよ。気を付けるわ」
昴は満面の笑みを見せた。
次の日の集会で、負傷していた悟は松葉杖をつきながら次の抗争の説明をしていた。
そのことに不信感が募る。
「なあ、わざわざ喧嘩なんか売らなくてもいいんじゃないのか?」
悟は軽い咳払いのあと、こちらを見据え、
「喧嘩ってのは報復の繰り返しなんだよ。やられたら倍になって返す。それを俺たちは受けて戦わないといけない。そういうもんだ」
よくわかんねえ。皆家は昴のほうを見た。
彼女はこちらの視線に気付くと手を振ってきた。
すると豪がにやにやと笑いながら、
「お前ら付き合ってんのか?」
と茶々を入れてくる。それに二人とも反論できずにいた。
果たして今の彼女との関係はどういうものなのだろうか。
どういうものなのだろうか。
悟を石段に腰掛けさせて少し話をする。
「天照廻って知っているか?」
「いや、知らねえな」
「昨日、そいつらに喧嘩売られてさ」
「なに? だったら俺もそいつらに焼き入れないとな」
「いやいや、ちょっと怪我しただけだからさ。大丈夫だ。そんなことよりも、そういう新興勢力はどういった形で組を運用しているんだ?」
悟は腕を組んで少しうなった。
「そうだな……小さな暴力団にケツ持ちしてもらったり、別の半グレと協定を結んだり」
悟は煙草をくわえた。それに皆家が火を点けてやる。美味そうに煙を吐き出し、
「気が利くじゃねぇか」とにやりと笑った。
皆家も同じくマルボロに火を点ける。
「実は……お前にだけは言うんだが、まず別班って知っているか?」
「いや。初耳だな」
「防衛省の独立スパイ組織、と言えばいいかな」
「ふーん。それで」
「そのような組織が新たに招集されることになった」
悟は苦笑した。「そのようなってなんだよ。曖昧だな」
「官庁と別機能の独立組織だ。そこで中国に渡り徹底的にカジノについて調べ上げ、国内に情報を持ち帰ってくるのが目的。……まあ、財務省が一枚噛んでいるだろうな」
「――難しい話はいまいちよくわかんねぇけど、つまり何が言いたいんだ?」
「俺は兄の命令でその特別組織に編成されることになるそうだ」
「それまたどうして?」
「兄は曲がりなりにも日本で有数の賭博組に所属する組員。その直系の家族が上流家系だったらなにかと都合がいいのだろうな」
悟は溜息を吐いた。
同情をしてくれているのだろうか。皆家の肩を二度叩いてくれた。
「どんな言葉を掛けても安っぽくなるだけだからあえて言わねえけど。まあそうだな。いつでも頼ってくれや」
「…………ありがとう」
チャイムが鳴った。「さぁ帰ろうぜ」と皆家含む四人は高校を後にした。
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