アウトロー・ザ・ビースト〜狂う頭脳戦〜

彼方夢(性別男)

第1話 仲間集め編①

 神奈川県で随一の不良校。阿賀嶺あがみね高等学校。そこに編入生が訪れる。

 名は皆家みなけ りょう。彼は東大合格率七割の進学校に通っていた。だが、ある問題を起こしたことでその進学校を退学になってしまった。

 そこで自暴自棄になった彼は阿賀嶺高校に編入することになる。

 編入初日。皆家が訪れたクラスの生徒は、彼を歓迎はしなかった。

 校舎裏に連れていき、皆家みなけに焼きを入れる番長の川田 さとる


「てめえにここの居場所はねぇ。出ていきな」

 悟の投げた言葉にも首を縦に振らなかった皆家。

 そのことがさらに癪に障ったのか悟は、皆家の胸倉を掴んだ。

「てめえみたいなボンボンに俺等の居場所を害されたくないんだよ」

「……俺は……ボンボンじゃねぇ」

「東大を呑気に目指していて、家族も仲良しな野郎はボンボンだろうが。コラ」

 すると鋭い眼差しを悟に投げつける皆家。

「お前に俺の何が解る?」

 悟は皆家を殴った。

「二度と俺に面を見せるな」

 去っていった悟。

 皆家は抜けた奥歯を唾とともに吐き出し、悟の背中を睨みつけた。


 家路に就いていると声を掛けられた。

「皆家。初めましてだな」

 訊ねてきたのは飄々としたボンタン姿の、刈り上げの男だった。

「誰だ? お前」

 いけしゃあしゃあと調子良く指を鳴らす。

「俺はかしわ 坂城さかきだよ。お前と同じ学校の」

「俺に何の用だ?」

「お前のこと色々と調べさせてもらったよ。お兄さんのこととかな」

 憎たらしい兄の顔面を思い出して、舌打ちしてしまう。

「で? 調べたから何だよ。お前になんか関係あんのか?」

 家路の道中にある公園でコーラを購入した坂城はこちらを横目に流しながら、少し笑う。

 こいつの軽薄な態度や自己陶酔に苛々が募る。 

「半グレ団体OCS。武闘派暴力団北川組の主な資金源だ」

「俺の兄がOCSだからといって何なんだよ。強請ってんのか?」


 神奈川県に根を張っている指定暴力団北川組。傘下のOCSを始めとした様々なアウトロービジネスを行っている。

「強請りだったらお前今頃地面に転がっているぞ」

 彼から一瞬だけピリッとした緊張感が放たれた。

 横柄な態度とはまた違った態度だ。

 つい、怯えて謝ってしまう。

 余裕そうな笑みを浮かべた彼は、皆家の肩を叩いた。


「怯えなくてもいい。驚かせるつもりで言ったわけじゃないからさ」

「そうか……」

「お前の話を聞かせてくれないか?」

 そんな安っぽい同情の言葉に、皆家は半笑いする。

「つまらない冗談はよしてくれないか? もう調べ上げてるんだろ?」


 初見だが、こいつのプロファイリング能力はずば抜けている。

 相手の懐に入り込むために用意周到すぎるほど準備をし、その相手を自分の傀儡にするために情報を開示する。

 いけ好かない奴だ。だが、賢い男だとも思った。

 けれど坂城は首を横に振った。


「俺はアホだからさ。ゼロから調べるのは苦手なんだ。OCSの件は情報筋があったからな」


 不良高校だとOBがヤクザということも多いのだろう。そこからの情報筋。

「だからさ。教えてくれよ。何か力になれるかもしれねえだろ?」

 口を開き、つい話をしてしまいそうになった瞬間、ある女の声がフラッシュバックした。


「明日から学校来ないでくれる? この学校の名に傷が入ったら嫌だし」


 その女は、高校一年生から交際していた幼馴染だった。皆家とそいつは共に名門の家系に生まれて私立の幼稚舎から順当にエスカレーター式に東大まで向かうはずだった。

 だが、袂を別れてしまった。

 そいつが最後に吐き捨てた言葉が、学校の栄誉の心配だった。十数年間積み重ねてきた関係をそんな言葉で片付けられたことに、深い後悔と哀憐の意を覚えた。


「なんちゅう顔してんだよ。今ので大体察したわ」

 けらけらと今度は愛想良く笑った坂城。

 そして、皆家にメビウスの煙草を手渡してくる。

「俺は……煙草は……」

「こういうのを吸うのも処世術だ。これからこの世界で生きるならな」

 歩き去ろうとする坂城をつい引き留めてしまった皆家。

「俺は、どうすれば……」

 そうしたら坂城は振り返り、ニヤリと笑って見せる。

「策士家になれ。そして周囲を巻き込んで仲間を作れ!」


 策士。他人を懐柔することに得もしない抵抗感や嫌悪感はあるが、しかし結局言葉は腑に落ちた。


□▲□


 翌日。阿賀嶺高等学校。昼休憩。

 悟は怒りに震えながら大股で歩いていた。

「おい、昨日の転校生。いるか!」

 皆家のクラスに訪れた悟は、椅子に座り菓子パンを食していた皆家を蹴り飛ばす。

「てめぇ。この学校でOCSのことべらべらと喋りやがったらしいな」

 皆家は立ち上がりながら、「二度と面見せないんじゃないんですか?」と嘲る。

「何だと?」

 皆家は勇気を振り絞って悟と対峙する。

「俺の兄貴がどうやら今度北川組と盃を交わすらしいんだが、も将来のこと考えるならどうよ」

 悟の顔面が引き攣る。「てめえ……」

 今ここで皆家を半殺しにしてしまえば、もしかしたら北川組と縁持ちになった皆家の兄から焼きを入れられるかも知れない。だが、このまま逃げれば泊が付かない。奴はその合間で揺れているのだろう、と皆家は思った。

「……にしてやる」

「は?」

「舎弟にしてやる。パシリじゃねえ。舎弟だ。これでいいだろ」

 去っていく悟。その背中は哀愁に満ちていた。


 胸をなで下ろした皆家。

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