第3話『やっちまった!! 館山の海で、柴犬にマーキングされた男』

主人公・柏木悠人(35)は、その日、会社の先輩と館山へボート釣りに来ていた。

前日から天気を調べ、潮と風向きを調べ上げ、

釣りブログもYouTubeも読み尽くした“完璧なプランニング”。


(これなら絶対釣れる……館山は今日、来る日だ)


しかし海は、そんな努力を鼻で笑った。

風は強く、波は荒れ、ボート屋の兄ちゃんは一言。


「今日は、出せないね〜」


柏木と先輩は、しばらく呆然と海を眺めていた。

波の白いカーテンが、希望をきれいに洗い流していく。


---


## 1.そして、あの“爺さん”が来た


海を見つめる二人の背後から、

サンダルを擦る音が聞こえた。


振り返ると、

柴犬を連れた小柄なおじいさんが立っていた。


「ここは釣れないよ〜」


柏木

「いや、釣れますよ。ここは実績が多いんです」


爺さん

「釣れないよ〜。全然釣れないよ〜」


柏木

「いや、過去データ的にも……」


爺さん

「釣れないって言ってるんだよ〜」


柏木

(いや、こっちは情報調べてきたんだが…)


先輩は黙って海を見ている。

なぜかこの“釣れる/釣れない論争”を楽しんでいるようにも見える。


---


## 2.「釣れる」vs「釣れない」の静かなバトル


柏木

「実は、昨日もここで15匹釣れてて——」


爺さん

「いや〜、釣れないねぇ。釣れないよ〜」


柏木

「いえ、潮も今日は良くて——」


爺さん

「ダメだよ〜。釣れないよ〜」


柏木

(なぜ…なぜこの人はそんなに自信満々なの…

 情報ゼロっぽい雰囲気なのに……)


爺さんは、なぜか柴犬と同じテンション。

“釣れない”の破壊力だけが妙に強い。


先輩は口元にニヤリと笑みを浮かべている。


---


## 3.そして“事件”は起きた


そのとき、柏木の右足に

**もわっ** とした温かい感触が広がった。


(……え?)


海じゃない。

波じゃない。

雨でもない。


**明らかに温度が“生きている”。**


ゆっくり下を見る。


そこには——


**柴犬が足を上げて、全力でマーキングしていた。**


---


## 4.崩れ落ちるプライド(と短パン)


柏木

「ちょ、ちょ、ちょ……!!」


半ズボンの右足に鮮やかな“証拠”。

サンダルの甲に、確実に落ちていく透明な液体。


爺さん

「あ〜〜〜……すまんねぇ。

 この子、初めての人にはよくやるんだよ〜」


柏木

(いや、初めての人全員にマーキングしてたら、

 人生大変だろ!!)


しかし声には出せない。


先輩は、海を見たまま静かに言った。


先輩

「……柏木、お前、今日……

 “釣られた側”だな」


柏木

「誰がうまいこと言えって……!!」


爺さんは悪気がないのか、

さらに追い打ちをかけてきた。


爺さん

「だから言ったろ〜?

 ここは釣れないって」


柏木

(いや、釣れなかったの魚じゃなくて、

 俺の尊厳なんですけど?)


---


## 5.撤退と、静かな敗北


その後、柏木は足を洗いながら、

海を無心で眺めていた。


波は相変わらず荒れているが、

どこかスッキリして見える。


先輩

「なぁ柏木、今日は釣れなかったけど……」


柏木

「……釣れないですね」


先輩

「でもまぁ……オチは釣れたな」


柏木

「それは要りません!!」


二人は笑いながら車へ戻った。


右足は少しだけ温かく、

心は少しだけ複雑だった。


---


# 🌟次回予告


## **第4話『やっちまった!! 誤送信!本音LINEの夜』**


うっかり送った“本音メッセージ”が引き起こす、

社会人最大の恐怖——

翌朝の職場“静かな戦い”が始まる。

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