第9話 不思議探検隊 あったか家族の古井戸!(後編)
あの取材から数週間後、僕ら「ふしぎ探検隊」に一本の連絡が入った。
佐々木さん一家からだった。
「井戸の映像に映っていた人物が、ここ数日、家の周辺で目撃されるようになりました」
最初は心温まる不思議な話だったはずだ。
だが、事態は徐々に悪化していった。
映像に映っていた“もう一人”が実際に現れることは、喜びの種だった。
しかし次第に、家族以外の影も映り込むようになった。
見知らぬ男たち、白目を剥いた者たち、不自然に歪んだ表情の人間たち。
彼らは夜になると井戸の周りを徘徊し、やがて家の窓を覗くようになった。
佐々木家は恐怖に怯えたが、侵入者を追い返すことはできなかった。
「姿はあるのに、触れられない」
だが、冷気と悪臭だけが彼らの痕跡として残った。
隣人は次々と転居し、町には噂が広まった。
「観測井戸の家に近づくな」と。
やがて、井戸の中の映像も変わった。
映る家族の顔は歪み、笑顔は消え、目は虚ろに。
そして、映ったはずの家族の誰かが失踪した。
佐々木夫妻は絶望に沈み、次男は長く眠り続け、長女は言葉を失った。
僕ら取材班もまた、その場所から離れられなくなっていた。
井戸の底に吸い込まれるような感覚。
不気味な囁き声が聞こえ、夜になると誰もが悪夢にうなされていた。
ある夜、メンバーの一人さっちんが忽然と姿を消した。
調査中に行方不明となり、二度と戻らなかった。
“観測井戸”は単なる異界への窓ではなかった。
それは、家族の記憶や想いが歪み、増殖し、やがて現実世界を侵食する恐るべき存在だった。
そして今、佐々木家は誰も住まなくなり、空き家となった。
だが、井戸の水面には、まだ、無数の影が揺れているという。
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