第15話 序章・連 京護(14)の転換日15
京護はすぐに食べず、じっとおかゆの入った器を見下ろす。
長ソファで横並びに座っている甚八は、弁当と副菜の半分を食べても動かない京護の様子を伺う。
「おかゆ嫌いだったかな」
「あ、違うくて……」
慌てて顔を上げ、甚八を横目で伺い、また器を見下ろす。
「先生は、知った後どうするのかなって」
「どうするって」
「おれを悪いようにはしないって言ったけど、それって」
京護が、器を持っている手に力を込める。
「おれが……先生の家族を、殺していても?」
蚊の鳴くような声だった。
甚八は箸を置き、体ごと京護に向かう。
君のせいじゃないよ、と言うのは簡単だ。
君は被害者だよと、伝えるのは大事だ。
だが、知っている少年の前で、知らない大人のままでは何も響かない。
「……うん。連君が笑って過ごせる、手助けをしたいと思ってる」
「連君」と、甚八が声をかけ、京護は素直に顔を上げる。
甚八は、今分かっている事だけを、京護に教えてあげた。
「最初からそう決めてはいたけど、君はね、僕の命の恩人になったんだ。
その恩を返したい思いが、一番になった」
予想外の言葉に、京護は目を丸くさせる。
「恩人? おれが先生の?」
「そうだよ」
甚八は箸を持ち、弁当だけをテーブルに置いた。代わりに副菜の小さなカップを手に取る。
そういえば、最後に家族で食事をしたのはいつだろうと、思い出せない郷愁の念を抱く。
本家と分家、全ての安否確認はまだ取れていない。
京護があえて言う意味を、甚八も分かっている。
己の父は、死んだ。
死んだ可能性の方が高い。
「……家族や親戚、とりわけ父のことは応報かまでは知ってみないと分からないけど、因果は確実にあった」
だからどんな事を知っても、君の助けになると約束する」
何故死んだかを噛みしめる為に、聞くのだ。
そして、恩人となった少年を守りたい。
これは伝わって欲しいと、京護を見ると、戸惑いの顔で甚八を見ていた。
「あの、おうほうって? あと、いんがとか」
甚八は「あ」と、視線をさ迷わせ一つ唸ってから、口を開いた。
「ええっと……応報は、良い事には良い事が、悪い事には悪い事が返って来ること。
因果は、仏教の言葉なんだけど、前に起きた事には、それに繋がる結果があるという意味。かな」
京護が難しい顔をした。意味は通じている。
どちらかといえば、納得していない顔だった。
京護も己に起きた意味を、探りたいのだ。
心と現実の整理と、すべき順序付けが出来ていないと悟る。
「簡単に言えば」
甚八は副菜のカップを平らげ、テーブルに置いた。
少年がすべき優先の最初は、食べるという生きる欲だと、甚八は思っている。
「いつか起きる事が今だった。それ以外の事は、僕も君も、これから一緒に知ることだ」
甚八が指さすおかゆの入った器を、京護も見る。
「おかゆの感想、知りたいな」
スプーンを持ち、かゆを掬う時に、かつんと鳴った。
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