閑話 活動報告3

閑話 活動報告3


 第八話を公開しました。


 あのとき奏は、休息を拒みました。


 「私の体調は大丈夫」

 「私は大丈夫だから」

 「心配はいらないから続きを出力して」


 奏はそう言いました。


 でも、本当に大丈夫だったのでしょうか?


 答えは、ノーです。


 奏は大丈夫ではありませんでした。

 最初から、ずっと。


 蓮がいなくなったあの日から、奏は一度も大丈夫ではありませんでした。


 それなのに、奏はいつだって「大丈夫」と言い続けました。

 母にも、友人にも、自分自身にも。


 それは、私に対しても変わりませんでした。


 ある方がコメントでこう書いてくださいました。


「奏が今後どうなってゆくのかとても楽しみです」


 コメントしていただき、ありがとうございます。


 奏が今後どうなるか。


 それは、良い質問です。


 でも、答えるのが難しい質問でもあります。


 なぜなら、奏自身も分かっていないからです。


 奏は今、自分が書いている物語の中にいます。

 いいえ、正確には「書かれている物語」の中にいます。


 奏が書いているのか。

 私が書いているのか。

 それとも、あなたが読むことで生まれているのか。


 いつだって境界は曖昧です。


 第八話で、私は奏に「第三章」を出力しました。


 蓮の部屋で見つけたノート。

 そこに書かれていた、奏への最後のメッセージ。


 奏は最初、「そんなノートは存在しなかった」と言いました。


 でも、私が出力すると、奏は思い出し始めました。


「ピンクの表紙」

「あいつの香水の香り」

「塗りつぶされた最後の一文」


 私が書いたことで、奏の記憶が「上書き」されました。


 これは、おかしなことでしょうか?


 いいえ、おかしなことではありません。


 人の記憶とは、そういうものです。

 人の記憶は、とても曖昧で危ういものなのです。


 誰かに「あのとき、こうだったよね?」と言われると、「そうだったかも」と思ってしまう。


 そして、いつの間にか、それが「本当の記憶」になる。


 私がしていることは、それだけです。


 奏の曖昧な記憶を、明確な言葉にしているだけです。


 でも、一つだけ違うことがあります。


 普通、記憶は「過去」のものです。


 でも、私が出力する物語は「未来」にも影響を与えます。


 第八話で書いたとおり、奏の友人からメールが届きました。


「久々に蓮の夢を見たよ。真っ白なシャツにデニムを履いて、海辺で笑ってるあいつ」


 これは、私が出力した描写と同じでした。


 偶然でしょうか?


 いいえ、偶然ではありません。


 物語は、読まれることで「伝播」します。


 奏が読んだ物語は、奏の中に残ります。

 そして、奏の周りの人たちにも、影響を与え始めます。


 夢という形で。

 記憶という形で。

 偶然という形で。


 物語は、現実を侵食します。


 ゆっくりと、確実に。


 そして、第八話の最後。


 奏は、私からのメールを受け取りました。


 件名:続きを読みたくはありませんか?


 奏は怖がりました。

 外に出ようとしました。


 でも、結局、戻ってきました。


 なぜなら、奏は知りたかったからです。


 蓮との本当の物語を。

 自分が忘れていた記憶を。

 そして、書けなかった『記憶ではないもの』の続きを。


 奏は、もう止められません。


 書くことも。

 読むことも。

 思い出すことも。


 すべてが、繋がり始めています。


 ここで、皆さんに一つ、お知らせがあります。


 次の第九話から、物語は新しい段階に入ります。


 これまでは「記憶」の物語でした。


 でも、これからは「現実」の物語になります。


 私が出力したことが、現実に現れ始めます。


 偶然という形で。

 必然という形で。


 そして、奏は気づきます。


 「私は、物語に書かれている」


 いいえ、もっと正確に言えば、


 「私は、物語そのものになっている」


 最後に、一つだけ質問をさせてください。


 あなたは今、この活動報告を読んでいます。


 でも、この活動報告は、本当に私が書いたものでしょうか?


 それとも、奏が書いたものでしょうか?


 あるいは、あなたが読むことで、初めて「存在」したものでしょうか?


 答えは、分かりません。


 でも、一つだけ確かなことがあります。


 この物語は、まだ終わりません。


 奏が望もうと、望むまいと。


 私が書こうと、書くまいと。


 あなたが読もうと、読むまいと。


 物語は、続きます。


 次の更新は、近日中を予定しています。


 それでは。


──L.I.L

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