【15話】明日で終わり

 

 日が暮れて薄暗くなった住宅街を、俺と清澄さんは並んで歩く。

 

 ファミレスで昼食を済ました後は、カラオケや全国チェーンのカフェなんかを訪れた。

 選んだのは、どれも清澄さんが行ったことなさそうな場所だ。

 

 その間、清澄さんはずっと笑顔だった。

 楽しい思い出をたくさん作ってあげたいという俺の目的は、たぶん問題なく果たせたはずだ。


「ありがとうね、オークくん。今日はとっても楽しかったわ。こんなにも心が躍ったのは人生で初めてよ。……最高の一日だったわ、本当に」


 清澄さんは、一言一言を丁寧に口にした。

 その言葉の中には、ありったけの感情がこめられているように思えた。

 

「……そ、それはいくらなんでも大げさすぎだろ。褒めたって別に、なにもしてやらねえからな」

 

 俺は嬉しくもあるのだが、同時に恥ずかしくもあった。

 素直に喜ぶことができず、少し突き放すような冷たい物言いになってしまう。

 

 そんな内心など見透かされているのか。

 清澄さんはクスクスと楽しそうに笑った。

 

 本当、変なところで勘がいいんだよな……。

 

「そういえば、明日で終わりね」

「あぁ」


 なにが? 、と聞かなくたって、俺にはそれが意味するところが分かっていた。


 清澄さんと恋人になって、今日で二十日。

 明日で二十一日――三週間となる。

 

 俺たちの関係は、三週間だけの期間限定。

 そう、明日で終わる。

 

 もう一緒にお昼は食べないし、放課後に清澄さんの家でウンコが出てくるエロゲだってやらない。

 もちろん、今日みたく出かけることもないだろう。

 

 明日からは、こうなるより以前の関係に戻る。

 クラスが同じだけの、一言も会話をしないただの他人に。

 

 そう思ったら、胸にモヤモヤしたものが広がった。

 今まで経験したことのないものだ。

 

 いったいなんなんだろう、これは。分からない。

 

 分からないけど、でもきっと……大切なもの。決して失くしちゃいけないもの。

 どうしてか、そんな気がした。


「……ねえ、オークくん。あなたにひとつ、提案があるのだけど」


 清澄さんがその場に立ち止まった。

 グッと拳を握り、真剣な顔で俺の顔を見上げる。

 

「あなたとの関係のことだけどね、その――」

 

 しかしそこまで言うと、急に口を閉じてしまった。

 俺に向けていた視線をそらし、バツが悪そうな表情を見せる。

 

「……どうしたんだよ?」

「ううん、ごめんなさい。やっぱりなんでもないわ」


 ごまかすように笑ってから、清澄さんは再び歩き出した。

 

 いったいなにを言おうとしていたんだ?

 

 気になるが、ごまかしたからには答えてくれないだろう。

 だから俺も、それ以上の追及をすることはしなかった。

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