【5話】清澄さんと昼食
「どういうつもりだ?」
食堂、窓際のテーブル席。
隣にいる清澄さんへ、俺は怪訝な視線を向ける。
いきなり連れ出されたことで、今の俺は意味不明な状況にいる。
ちゃんとした説明がほしい。
「さっきも言ったじゃない。一緒にお昼を食べるためよ」
「そういうことじゃない。どうしてお前なんかと一緒に飯を食わなきゃいけないんだ」
「私たちは今日から三週間恋人同士になったのよ。揃ってご飯を食べるのは当たり前でしょ?」
「当たり前って……。でもお前、昼飯は一人で食いたいんじゃないのかよ?」
「あぁ、そのこと。あなたなら問題ないわ」
フッと笑った清澄さんは、ドヤ顔でスマホを見せてきた。
そこに映っているのは、あの鬼畜エロゲ――『
「私は時間を有効活用したくてね。食事をするときも、エロゲをやりたいのよ。でもその姿を、他の人に見られる訳にはいかないわ。きっと驚かれてしまうもの。……ただし、あなただけは別よ」
「俺は、お前がエロゲをやるような女だって知ってる唯一の人間。だから見られようがどうでもいい。そういうことか?」
「分かってるじゃないの。さすがは私と同じ好みを持つ人間ね」
「だから一緒にすんな――って、聞いてないし……」
右手にスプーンを握った清澄さんは、食堂で注文したカレーを食べ始めた。
もう一方の左手では、膝の上に乗せたスマホを操作している。
もちろん視線は、下方向へ。
膝の上のスマホでプレイしているエロゲに夢中だ。
俺の話なんてまったく聞いていなかった。
この女……人の話を聞かないタイプだな。
呆れながら視線を外した俺は、購買で買ったパンを手に持った。
俺も食事にしようとしたのだが、口に運ぶ前にその手が止まってしまう。
…………めっちゃ見られてる。
清澄さんが誰とも昼食を食べないという話を知っているのは、なにも二年三組のクラスメイトに限った話ではない。
食堂にいる生徒たちも知っている。
そうなれば先ほどと同様に注目を集めてしまうのも、当然のことだった。
しかも食堂は今、お昼のラッシュによりほぼ満員状態。
大量の生徒で溢れかえっている。
向けられている視線の数は、教室のときと比べてずっと多い。
それらを気にせずに食事できるほど、俺の神経は図太くなかった。
しかも、だ。
「ふひっ、ぶひひひひひ……!」
気味の悪い笑い声まで聞こえてくる始末。
あの鬼畜エロゲに出てきたオークの鳴き声によく似ている。
でもここに、オークはいない。
いるのは人間だけだ。
ではいったい誰が、となるが、その正体はすぐ近く。
俺の隣にいる女――清澄姫香だ。
……なんて声出してんだよ。
怪訝な顔をしていると、ツンツン。
清澄さんが俺の肩を指でつついてきた。
「みてみて!」
弾んだ声を上げた清澄さんは、膝の上に乗せているスマホを俺に見せてきた。
そこに映っていたのは――ウンコ。
画面いっぱいに埋め尽くされた、大量のウンコだ。
清澄さんが見せてきたのは、あの鬼畜エロゲのワンシーンだった。
昼飯のときになんてもん見せんだよ! 最悪だなこいつ!
大勢に注目されているせいでただでさえ食欲が失せているというのに、ひどい追い打ちだ。
そのせいで俺の食欲は、さらに落ちてしまう。
「ヤバくない? 一面茶色まみれになってるわ! ふひっ、ふふ、ぶひひひひひ!」
また気味の悪い声で笑った清澄さんは、何食わぬ顔でカレーを口に運んだ。
そんなもん見た後で、よく平気な顔でカレーを食えるな……。
一番ヤバいのはどう考えてもお前だよ。
げんなりした俺は、手に持っていたパンを机の上に戻す。
とてもじゃないが、今は食事をするような気分にはなれなかった。
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