黒髪美少女生徒会長のスマホに映っていたのは、鬼畜モノのエロゲでした~秘密を知ってしまった俺は、どうしてか彼女と付き合うことになりました~
夏芽空
【1話】オークとウンコと生徒会長
月明かりに照らされた夜道を歩く俺は、今にも吐きそうな顔をしていた。
先ほどまでスマホでプレイしていたエロゲのワンシーンが、あまりにも衝撃的すぎたからだ。
『オーク様のウンコ最高! ウンコウンコウンコおおおおおお!!』
とんでもないセリフを叫び散らす声優さんの熱演が、頭にこびりついて消えてくれない。
ぐるぐると無限ループしている。
「あんなゲームやるんじゃなかった……」
そもそもの発端は、半日ほど前になる。
日曜日の昼間。
私室のベッドに寝転がってスマホをいじっていた俺は、好きなシナリオライターが新作ゲームを出したという情報を見かけた。
あのライターさんの作品なら絶対面白いはずだ!
テンションが上がっていた俺は、内容をロクに確認せずゲームを購入。
そしてその一分後に、激しく後悔していた。
『
まずこれが、ゲームのタイトルだ。
おぉ……なかなかに強烈。
そんでもってあらすじが、
『ニック・ベン王国に暮らす麗しき王女、ヴェンキーナ姫。彼女はある日、豚の怪物――オークの集団による襲撃を受け誘拐されてしまう。その先に待っていたのは、決して終わることのない絶望の日々だった……』
こう。
…………うん、ヤバい。
この時点でかなり嫌な予感はしていた。
しかしだ。せっかく買ったのに一度もプレイしないというのは、もったいないのではないだろうか。
それにやってみたらやってみたで、意外に面白いかもしれない。
だから俺はゲームを起動した――してしまった。
その結果が、今のザマだ。
度を越えた暴力表現と胸糞展開のオンパレード、そして……ウンコ。
それがゲームの内容だ。ちなみに、救いはいっさいない。
こういうのが好きな人も世の中にはもちろんいるんだろうが、俺には無理だった。
その証拠に、こんなにも今グロッキーな状態になっているのだから。
そんな自業自得な経緯で精神に大ダメージを負ってしまった俺は、外の空気を吸ってリフレッシュしようと散歩に出てきたという訳だ。
しかしながら、最悪な気分は未だに継続中。
外に出れば少しはマシになるかと思ったのに、家を出てニ十分ほど経った今もまったく改善が見られない。
「いつまでこの状態が続くんだろうな……」
ため息を吐いた俺は、俯きながら曲がり角に立ち入る。
そのときだった。
ドン!!
曲がり角の先から歩いてきた女の子と、おもいっきりぶつかってしまう。
ぶつかった衝撃で、彼女の手に握られていたスマホがポーンと宙に飛び出した。
落下したそれはアスファルトの上を転がっていき、俺の足元で動きを止めた。
「見ないで!!」
女の子は必死に叫ぶが、もう遅い。
既に俺はスマホを拾い上げた後で、そして、戦慄していた。
「…………
無意識に言葉が漏れる。
女の子のスマホの画面に映っているのは、オークとウンコ。
見覚えのあるそれは、こうして俺が外に出てくる原因を作った鬼畜モノのエロゲ――『
「おわっ!?」
手の上にあったスマホが、突如としてさらわれる。
持ち主がぶんどってきたのだ。
「見たわよね?」
ギリリと瞳を吊り上げた女の子が、俺を睨みつけてきた。
言葉は疑問形だが、怒りに満ちた表情は俺がスマホの画面を見たと確信している。
ごまかしは効かないか……。
見ていないと言って事態を収拾できたら一番スマートだったのだが、これでは無理そうだ。
「いや、その……俺はただ、君にスマホを返そうと思っただけだ。決してわざとじゃ――あれ?
背中まで伸びた黒髪に、切れ長の青色の瞳。
ありえないくらいに整った、
目の前にいる女の子――
俺と同じ
容姿端麗かつ、成績は学年トップ。両親は会社をいくつも経営しているような超大金持ち。
それに加えて人当たりもよく、多くの学生たちから慕われアイドル的な扱いを受けている。
清澄さんを一言で表すなら、完璧。
非の打ち所なんて一つもない、完全無欠の清楚系美少女なのだ。
そんな彼女のスマホに映っていたのは、エロゲ。
しかも、鬼畜モノ。しかも、ウンコ。
まさか清澄さんが、あんなゲームをやっていたとは……。
エロゲをやっているというだけでもなかなかに衝撃的なのに、その内容でさらにビックリ。
まさかの事態に戸惑っていると、清澄さんは怪訝そうな顔つきになった。
眉間にしわを寄せ、じっと俺の顔を見つめる。
「あなた、見覚えがあるわ。確か…………オークくん、だったかしら?」
「……惜しいな。俺は
さっきまでプレイしていたエロゲのせいで、俺のオークに対するイメージは最悪になった。
じゃあこれまでは良いイメージを抱いていたのか、と聞かれたら答えはノーなのだけど、ともかく今はやめてほしい。
「それは失礼したわね。私、どうでもいい情報はなるべく頭に入れないようにしてるの。リソースの無駄だから」
「……はぁ、そうですか」
多くの人から慕われている清澄さんとぼっちの陰キャである俺では、住んでいる世界が違う。
クラスメイトとはいえ、これまで一度も話したことはなかった。
だから名前を覚えていないレベルにどうでもいい人間だと言われるのも、しょうがないというもの。
それについてのダメージは特にない。
でもなんか、いつもの感じと違くないか?
清楚で明るく、誰に対しても優しい。
それが俺の知っている、清澄姫香という女子だ。
間違っても、こんなとげのあるような言い方はしない。
もしかして学校ではいつも、猫を被ってたのか?
これが本性だったりして……。
女って怖いな、なんて思っていると、
「……で、私はどうすればいいの?」
低い声が飛んできた。
腕を組んだ清澄さんは、不機嫌そうに顎をしゃくった。
鋭い視線を俺へと向ける。
「あなた、これをネタにして私を脅迫する気でしょ?」
「……いや、そんなことしないけど」
「嘘おっしゃい。『このことをバラされたくなかったら……分かってるよな? グヘヘヘヘヘ!』とか言うつもりでしょ! 私、知ってるんだから!」
それたぶん、エロゲの世界での話だろ。
よくあるもんな、そういう展開。
「いや、クラスメイトを脅すことなんかしないって」
しかしここはエロゲの世界ではいし、俺は一般人だ。
人並みの道徳心は持っているつもりだし、脅迫しようなんて思わない。
だが、清澄さんの表情は変わらずだ。
まったく信用してくれていない。
……こうなったら無理矢理にでも終わらせてやる。
とんでもないエロゲをプレイしたせいで最悪な気分の今、俺はいち早く散歩を再開したかった。
これ以上は付き合っていられない。
「俺たちは今夜出会わなかった。……これでいいでしょ。はい、解決」
ぶっきらぼうに言い放ち、清澄さんに背を向けた。
それじゃあ、と一方的に別れを告げて去っていく。
「ちょっと! 待ちなさいよ!!」
背後から聞こえてくるのは、俺を呼び止めるための叫び声。
しかし俺は戻ることも、足を止めることもしなかった。
******
月初めには必ず、全校集会を行う。
それがここ、
「本日より六月に入りました。梅雨の季節ということで――」
体育館の壇上で挨拶を述べる生徒会長を、俺の周囲の生徒たちは尊敬の眼差しで見上げている。
朝一だというのに、彼らの表情には気怠さや眠気といったものがない。いきいきとしている。
そうなっているのには、理由があった。
壇上の生徒会長が、この学園のアイドル――清澄姫香だからだ。
凛々しい声で挨拶をしている彼女は、カッコよさと美しさを兼ね備えている。
生徒たちはみな、その姿に大いに魅了されていた。
しかしながら、俺は違う。
顔が向かう先は壇上ではなく、下の木製フローリングだ。
昨夜あんなことがあったせいで、どうにも気まずい。
清澄さんの顔を、まともに見ることができないでいた。
けど、このままじゃダメだよな。
清澄さんとは昨夜会っていない。
そういうことにして、俺は無理矢理に終わらせたのだ。
だからここで気まずくなるのはおかしい。
昨夜のことはさっぱり忘れて、普段通りに過ごさなければならない。
そうでないと、俺は嘘つきになってしまう。
……よし。
覚悟を決めて顔を上げてみる、と、
「――なっ!?」
ギョッとした。
顔を上げたとたん、清澄さんが俺を見てきた。
口元は大きく歪み、めいっぱいの不愉快さを放っている。
けれどそれは、ほんの一瞬のこと。
すぐに俺から視線を外すと、いつものにこやかな顔に戻った。
まるでなにもなかったかのように、挨拶を続けていく。
たぶん俺以外の人間は、今の変化に気づいていない。
それくらいに短い間だった。
今のはいったい……。
俺になにか言いたいことがあるのか?
壇上の彼女へと向ける視線は、自然と怪訝なものとなっていた。
実習棟の空き教室で昼食を食べる。
それが俺の昼休みの過ごし方だ。
たとえ今朝の全校集会の件が気になってモヤモヤしていたとしても、その予定に変更はない。
昼休みを迎えた今、俺はいつものように実習棟へ向かおうとしていた。
「ねえ、あなた」
しかし自席から立ち上がろうとしたタイミングで、横から声をかけられる。
それをしてきた相手は、清澄さんだった。
優しくて明るい雰囲気は、俺がよく知っているいつもの彼女だ。
昨夜や今朝のときのような不機嫌さは、今はどこにもない。
今朝のあれは、俺の見間違いだったのか?
見えたのは一瞬だけだったし、その可能性もある。
今の表情を見ていると、そんな風に思えてきてしまった。
「これ、落としたわよ」
「えっ、俺のじゃないけど」
清澄さんが俺の机の上に置いてきたのは、なにも書かれていない小さなメモ用紙。
しかしそれに、見覚えは無い。
他の人と間違えている。
「隅々までしっかり読むのよ。分かったわね?」
「だから俺のじゃない――行っちゃったし……」
俺の声は、きれいにスルーされてしまう。
ドアの方へ優雅に歩いていった清澄さんは、教室から出ていってしまった。
……いったいなんなんだよ。
それに隅々まで見ろっていったって、なにも書かれて――うん?
一見なにも書かれていない、このメモ用紙。
しかしよく見てみれば、端の方に小さく薄く文字が書いてあった。
「……生徒会室」
メモに書かれている四文字を、小さく口にする。
生徒会室に来いって、そういうことだよな?
どうやら俺は、清澄さんに呼び出しを食らったらしい。
用件ならおおよそ想像がつく。
昨夜の件で、俺に話があるのだろう。
全校集会のときに見たあれは、やはり間違いではなかったようだ。
……いいだろう。
今度こそケリをつけてやる!
昨夜の帰り際の反応からして、なんとなくこうなるような予感はしていた。
それなら俺も望むところだ。
これ以上長引かせるのも嫌だし、ここでスパッと終わらせてやる。
メモを握りしめた俺は、ズボンのポケットへ乱暴にそれを突っ込んだ。
気を引き締めて、教室を出ていく。
向かう先はもちろん、清澄姫香が待っているであろう生徒会室だ。
★★★作者のあとがき★★★
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