第19話:キール達の決意

 学院に残って情報取集をしていたキール・クロツ・バラキ・アマンの四人は連絡を受けると王立騎士団と合流すべく準備を整えた。

 騎士団長ザラから調査開始時に渡された装備品に加えてキールは――一丁の拳銃を用意していた。


「元警官となると銃も使えるんですね」

 バラキは感心しているが……。


「日本の警官はそう滅多に発砲しない。ただ、これでも銃の腕はいい方だったんだ」

 キールは銃をホルスターに下げた。


「その銃はどこで?」

 クロツが尋ねる。


「氷都の実家がこういうものを扱う商店でな。餞別にと貰った……銃弾がルーラシアではあまり流通していないからな、無駄撃ちはできないと思ってくれ」

 それでも、直接の戦力を持たないバラキとクロツにとっては随分頼もしかった。


 四人は学院を出て騎士団の馬車に乗り、現地に向かう。

 向かう先は貴族の邸宅街とは離れた富裕層の住宅街だ。雷都公女ペリオ・ラドキゼガンがそこにいる。

 ルビゼには着信が入った。四人とも出る。


「こちらザラ。キール達はあくまで援護に徹して欲しい所だが……少なくともシンザギは明確に向こうにある。それを奪う策は考えておけ」

 一方的に言って、通話は切れた。


「シンザギを奪う策、か……クロツの力で場所だけでも把握できればいいんだが……」

 キールの言う通り、この四人の中で探索に向いているのはクロツだ。ギド達とはすぐに合流できないだろう。そうなるとできることも限られてくる。


「うーん……と言ってもわたしは空気が繋がっていないと聞き取れないし、戦闘には不向きだからね。その意味でいくとどうにか中に突入する必要があるんだけど……」

 クロツは自分の能力をよく分かっている。


 大気伝導……空気で繋がっている所の物音を聞き取る力は、密閉された所ではあまり効果を発揮しない。ペリオ公女にせよゲルガルと言う女にせよ、シンザギを開所で使う程愚かではないだろう。


「となると突入する手段は……キールさんの銃弾とアマンさんの魔法ですか?」

 バラキが口元に手をやって言う通り、キール班に取れる手段はそれくらいしかない。


「騎士科が一人もいないってのは不安だけど……いざって時はやるよ」

 アマンは仕方ない、という風に言った。


 本当ならば騎士科の誰かを待って突入部分を任せた方が早い。しかし、恐らくギド達は地下からの突入となるのだ。そう簡単に合流とはいかないだろう。ならば、直接戦力になる自分が向かうのが手っ取り早い――アマンはそう考えた。


「とはいえアマン一人に無理はさせられん。私も銃で支援する。弾はありったけ持ってきたしな」

 キールは銃弾が入ったケースを取り出して言った。


 銃を撃つ経験にはトラウマがある。しかし、今はそんなことは言っていられない。自分達の権利を掴むか否かの瀬戸際にきているのだから。


「……間もなくだね」

 いい方策が浮かばないまま、馬車は住宅街に入り込む。


 騎士団の馬車と馬があちこちに止まっている。物々しい空気の中、キール達は馬車から下りてクロツの案内でザラの元へ向かった。


 騎士たちはそろってビキニアーマーを纏い、剣や斧を持って周囲を警戒している。銃を持っている者はいない。


「着いたか」

 騎士団長ザラは剣を持ち、何人かの部下に指示を出していた。キール達に気づくと部下をいかせた。


「シンザギを奪ういい算段は正直ありませんね。ギド達がどう動くかにもよる……せめて屋敷内部の見取り図でもあれば別ですが」

 キールはまず牽制した。

 今の時点ではシンザギに至る情報量が少なすぎる。屋敷の中がどうなっているのか考えるだけで少しは違うのだ。


「これだ」

 ザラはルビゼで画像を送ってきた。ギド達にも共有されている。


 中はさほど広くはないようだが、凝った造りになっていた。キールはいつか聞いた『バカな貴族と金持ちは家に凝る』という話を聞いた。ペリオ公女はそのタイプだ。

「問題は地下、か……」

 そして考える。地上に何もなければ地下室に何かがあると考えられる。


 住宅街の地下は開発中になっているが、ギド達が見つけた通路の存在を考えれば恐らく地下で繋げているのだろう。

 そして不気味なことに、ペリオ公女邸には私兵の一人もおらず、家は無防備な状態になっている。

 何かおかしい……キールの勘が告げている。


「騎士団長、地下の見取り図はないのですよね?」

「ああ。少なくとも地下があるというのは分かっているが、詳細については不明だ」

 となると――キールはルビゼを取ってギド達に連絡した。


「お、キールさんかぁ?」

 イグルが出た。少なくとも現時点で接敵はしていないようだ。


「ああ。気をつけろ。地上にはエメンハエムの私兵もギルゲラング傭兵団もいない。恐らく地下に集めている……そちらの方が危険と言うことだ」

「マジかよぉー……分かった」

「恐らくシンザギもそちらにあるだろう。ついたら連絡してくれ。陽動を試みる」

「おぅー……」

 ひとまずは布石は打てたが……ここからの動きが問題だった。


「恐らく敵の本隊は地下にいる。我々は地上で陽動に当たり、ギド達の動きを支援する。正直な所シンザギが地上にあるような話ではない。地下で何があるのか……アマン、私と共に先鋒でこい。クロツとバラキはその後から」

「どうするんだ?」

 アマンが腕を組んで尋ねてくる。


「相手の退路を断つために騎士団がスムーズに中に入れるように露払いだ……誰もいない、とは考えづらいからな。それを押さえて騎士団の突入と同時に我々は地下に向かう。ギド達と合流できれば……」

「シンザギへの道も開ける、というわけですか」

「ああ。もっとも、そう上手くいってくれるといいんだがな」

 キールは銃を取り出し、その銃口をなぞった。


 実戦で銃を撃つのは前世から数えて二度目……果たしてうまくいくのか、キールには確証が持てなかった。

 しかし、この銃弾を外せば自分達に権利は訪れず、仲間を見殺しにすることにもなってしまうだろう。ならば、躊躇う理由はどこにもなかった。


「怪我しても任せてください」

 バラキは医療杖を取って強く言う。自分が誰かの力になれる時がくるならば力を振るうのは惜しまない、彼の眼には決意が溢れている。


「支援はするよ。微力だろうけどね」

 クロツは短剣を取り出している。

 果たして自分のような存在がこの場で役に立つのか……クロツには不安だったが、しかし彼にも彼の権利がかかっている。何より、ここまで一緒に歩んできた仲間を見捨てられはしない。


「一人で背負いこむなよキールさん。俺だっているんだから」

 アマンは魔法杖を出し、あえて強く言った。

 自分の力ははっきり言って役立たずだ。しかし、魔法の技能ならばそれなりに磨いてはいる。それを使えればこの状況も乗り越えられる。信じることなくして成功はなしえないとは、彼が前世から抱いている信念と言ってよかった。


「では――やるぞ」

 キールが拳を突き出すと、三人はそれに拳を合わせた。


 そしてキール達はギド達の突入の報を待つことになる――エメンハエム教団との全面決戦は、すぐそこまで近づいていた。


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