第12話:母からの荷物

 アザシン寮に戻ると、寮母さんに呼び止められた。


「ギド、ニナギから手紙と荷物が届いているぞ」

 ニナギから……ということはケクママからか。


「ありがとうございます」

 僕は包みを受け取った。確か……古代ルーラシア語で書かれたと思しき書物とケクママの手紙だろう。果たしてどんな書物か……。


「戻りましたか」

 確認する間もなく、バラキに声をかけられた。


「うん、ただいま」

 僕達は口々に言って、食堂に入った――そこに、ザラ騎士団長がいた。座って飲み物を飲んでいる。


「ご苦労だったな。収穫については氷都ティンムドラのキールから聞いている」

 キールさんは既に騎士団長に報告してくれていたらしい。となると……貴族とエメンハエム教団とギルゲラング傭兵団の繋がり、そこから抜けたジグザの存在も分かっている筈だ。


「調査は結構進んだと思いますけど……あとはジグザの居場所かなと思います」

「うむ。それは忍者どもに任せたようだが……検索複写でさっきお前達が見た密書の内容とやらは出せるか?」

 ああ、ザラ団長の立場ならそりゃ聞かなきゃダメか。


「出します。検索複写・エメンハエム教団の密書の内容」

 僕は目の前にバンとさっき見た密書の内容を複写した。ザラ騎士団長はそれにさらっと目を通した。


「ふむ……ペリオ公女の邸宅か……」

 騎士団長はそれを自分のメモ帳にメモしていく。


「騎士団の方で押さえられないんすか?」

 プオルが尋ねる。そりゃ武力を持たない僕達よりは戦いが専門の騎士団の方が向いてるから、言いたい事は分かる。


「騎士団の者で対応できるだろうな……とは言え、お前達も加わった方がのちのち有利だぞ。特に騎士科の者は騎士号を得るチャンスだ」

「やりまぁーす!!」

 プオルが一気にやる気になる。こいつ大丈夫なのかな……。


「マジかよぉー……」

「でも、その方がわたしたちの権利はつかみやすいよね」

 イグルは乗り気じゃないけど、クロツさんは寧ろやる気満々だ。


「覚悟決めろよイグル。俺たちは戦わないと権利を掴めないんだ」

「おう……」

 マシスに言われてイグルはしぶしぶ覚悟を決めたらしい。


「それで、俺達は何をすればいいんですか?」

 アマンが尋ねる。


「戦える者は戦って貰う。できなくとも補佐はできるだろう。そして……シンザギを探し出せ。恐らくジグザという奴が持っているのだろうが」

 シンザギはやはり王宮にとっては重要なものであるらしい。


「それを手に入れたら僕達の扱いはどうなりますか」

 僕は思い切って尋ねる。


「お前達が求める幾つかの権利は保障するように騎士団から計らってやる。と言っても確約はできないが、実績がなければルーラシアの常識は変えられん。もっとも……」

 ザラ団長は隣り合って座る僕とメダを見た。


「恋愛禁止、というのは変えられん。権利云々ではなく、ルーラシアの女は男と交わることで病気になって死ぬというのは既に実証されていることだ。五十年前にも症例が存在している。それは……国民の大多数を守る為に仕方ないことなのだと心得て欲しい」

 その目は真剣だった。


 そこはダメか……試せば勿論、その人は死ぬことになる。僕達の間に緊迫した空気が満ちる。それは――当たり前の存在でなくなってしまったことに対する悲しみが満ちていく時間だった。


「分かりました。けど、生存権や財産権を保障されるだけで大分気は楽になります」

「うむ。お前も頑張れ」

 僕に何ができるだろうと思うけれど、でも、やらなきゃ変わらない。

 僕は置いていた包みを取った。


「それと……この包みの中身なんですけど」

「ん?」

 ザラ団長は不思議そうな顔になった。


 僕は包みを開けた。中から古い写本が出てくる。


「学院の人を通して専門家に見せたいと思ってたんですけど……王立騎士団の方で誰か伝手はありませんか」

「待て、これは?」

「ニナギのママの家にあった本で、多分古文書の類です」

 僕は全員にそれを見せる。


「見た目に古ルーラシア語ですね」

 ある程度知識があるカゲツが教えてくれる。


「ふむ……確かに古語だな。私でも読めないが……デティ辺りか……いや、待て」

 ザラ団長は宮廷魔術師の名前を出したけど、すぐに何かに思い当たった。


「お前達の調査の中でエメンハエム教団は史書の古いものに乗っているものらしいな」

「はい。それは間違いありません」

 バラキが答えてくれる。


「加えて――ジグザと言う娘は輝都ジェケドットの方からきたと言ったな?」

「はい。僕にはそう言ってましたし……」

「私達の調査でもジェケドットにいたまでは確定してるわねぇ……」

 僕の言葉に、メイジスが被せる。


「となると適任者が一人王都にいる」

「どなたですか?」

 尋ねたのはメダだった。


「ファルル・リ・ラカラクト・ウィ・ゼルケン・ディ・オルペガ侯爵……輝都ジェケドットにある工業都市ラカラクトの侯爵だ。軍事の分野で様々な功績があり、考古学博士号の持ち主でもある」

 ルーラシアに於いて人の名前に苗字はつかない。

 つくのは騎士以上の身分であり、五爵からなるガチの貴族は領地の名前(ラカラクト卿であれば工業都市ラカラクト)がそのまま苗字となる。

『リ』は五爵の内侯爵につく称号だ。『ウィ・ゼルケン』以降は個人が持つ苗字……ややこしいな。あとでメダに聞こう。


 マジの貴族がくるのか……待って。


「あの……大丈夫なんすか。エメンハエム教団は貴族と繋がってるってのに」

 プオルの言う通りだったりする。


「ふむ……心配は分かる。しかし、キールから聞いたお前達の調査の中で気になる点がある」

 ザラ団長はキールさんを見た。


「少なくとも『不平を抱く貴族』には共通点がある。都公かその下、侯爵以下の家の次女三女以下という立場の方が多い。つまり、直接に家督を継がない立場であり、王都で公職に就いている中でも出世コースからも外れている者だ」

 キールさんは生徒に情報収集した内容を出してくれた。


「ってことは……?」

「侯爵位にいるラカラクト侯爵は疑う必要がないってことだよ、プオル」

 アマンがプオルに解説している。


「そうでなくともラカラクト侯爵は平和に領地を治めてる噂がマゴランまで聞こえてきたくらいだし、そういうことには不寛容な人でもあるらしいし」

 アマンの出身である水都マゴランと輝都ジェケドットは隣り合っているので、噂は聞こえてきたらしい。

 なら大丈夫か……? 僕らはちょっと話をどうしようか迷った。


「第一ラカラクト家の当主に叛意があったら王国が困るでしょ。ジェケドットの軍事を一手に担う〝クリームのラカラクト〟よ」

 メダがフォローするように言う。この辺はルーラシアに明るくない僕達では分からなかったりする。

 でも、疑ってばかりじゃ信じても貰えないな。


「分かりました。ザラ団長、お願いします」

 僕はザラ団長に頭を下げた。


「うむ。キールが言った理由、そしてアマンが言ったマゴランにも届く噂に加えてメダの言うジェケドット騎士団団長という立場からして信頼できる方だ……ただ、お前らからすれば雲の上の方だからな。くれぐれも失礼のないように気をつけろ」

 それは本当にそうだ。何せ僕らは貴族の中でも爵位の持ち主と会う機会がない。今の時点だと(ザラ団長の口添えがなければ)首を刎ねられても文句を言えない立場だ。それくらい僕らの立場が弱い。


「分かりました。明日には忍者屋敷の人達の調査が上がる約束ですけど、ラカラクト侯爵とお会いできるのはいつですか?」

「王都に邸宅がある方だ。明朝には会えるだろう……十一人全員、明日の授業は休め。学院には話を通しておく」

 なんだかんだ、ザラ団長にはお世話になっている。この人がいなければ僕らは今頃どうなっていたか分からない。


「分かりました。先方によろしくお伝えください」

 僕はまた頭を下げた。


「ああ。これは預かっておく」

 書物を持って、ザラ団長は立ち上がった。僕達は見送る。


「ギドには世話になるな」

「キールさん?」

 不意に、キールさんに言われた。


「お前が代表して話してくれると上手く話が進む。私達のリーダーはお前だよ」

 僕なんかよりずっと頼もしいキールさんにそんなこと言って貰っていいんだろうか……僕はちょっと重く考えてしまった。


 けど、その後はあれこれ言い合いながら寮母さんが作ってくれたシチューを食べることになった。


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