第5話 頬キスで気絶する男子が現れた
放課後の教室
私の目の前には、小動物がいた
いや、小動物のような男子、小倉ひま(おぐら ひま)
彼は上目遣いで私を見上げ、モジモジと指を絡ませている
身長は私より高いはずなのに、なぜか小さく見える
幻視レベルで、頬袋が膨らんでいるように見える
「あ、あの……こころちゃん……」
「ん? どうしたの、ひまくん」
私が尋ねると、ひまは顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で言った
「ぼ、僕も……実験、してほしいなって……」
またか
このクラスの男子は、実験マニアしかいないのか
理系か
「ひまくんも? 何を確認したいの?」
「そ、その……ノートに書いてあった……『押しに弱い』ってやつ……」
ひまは恥ずかしそうにノートのページを開いた。
『ハムスター系:押しに弱い。優しくされるとすぐ懐く。キャパオーバーするとフリーズする』
「僕、そんなに弱くないと思うんです……! 男だし……!」
「お、おう。男らしいね」
「だから……こころちゃん、僕のこと……押してみてください……!」
ひまはギュッと目を閉じて、身構えた。
「押す」って、物理的に? それとも精神的に?
まあ、どっちでもいいか。
「わかった。じゃあ、いくよ?」
私は一歩踏み出し、ひまとの距離を詰めた。
いわゆる「壁ドン」の体勢だ。
ドン、と壁に手をつく。
「ひまくん」
至近距離で名前を呼ぶ
それだけで、ひまの顔がボンッ!と音を立てて赤くなった
「あ、あう……」
「ひまくん、可愛いね」
「ふぇっ!?」
ひまの目が泳ぐ
黒目がちの瞳が、高速で左右に動いている
処理落ち寸前のパソコンみたい
ファンが回ってる音が聞こえそう
「まつ毛長いね。肌も白いし」
「そ、そんな……見ないで……」
「もっと近くで見ていい?」
私がさらに顔を近づけると、ひまは「ひいぃ」と悲鳴を上げた。
可愛い。
いじめたくなる可愛さだ。
「ねえ、ひまくん」
「は、はいぃ……!」
「好きだよ」
ド直球に言ってみた。
もちろん、友愛の意味で。
その瞬間
ひまの動きがピタリと止まった
「……え?」
時が止まった
ひまは口を半開きにして、瞬きもせずに私を見つめている
「ひまくん?」
私が指でつつくと
カクン
ひまの膝が折れた
糸が切れた操り人形のように、崩れ落ちていく
「わっ、ひまくん!?」
私は慌てて彼を支えた
重い
男の子の重さだ
でも、意識がない
「ひまくん! しっかりして!」
揺さぶるが、反応がない
完全に気絶している
白目を剥いていないだけマシだが、魂がどこかへ飛んでいってしまったようだ
「……マジか」
『キャパオーバーするとフリーズする』とは書いたが、まさかシャットダウンするとは
電源ボタン長押しレベル
数分後。
ひまは私の膝の上で目を覚ました。
(床に寝かせるのは可哀想だったので、膝枕をしてあげていたのだ)
「……んぅ……ここは……天国……?」
「教室だよ」
「あ、こころちゃん……天使……?」
「こころだよ」
ひまはぼんやりとした目で私を見上げ、そして状況を理解した瞬間、再び顔を真っ赤にして飛び起きた。
「わあああああ! ご、ごめんなさい! 僕、気絶なんて……!」
「いや、面白かったからいいけど」
「恥ずかしい……穴があったら入りたい……」
ひまは両手で顔を覆って、小さくなっている
本当にハムスターみたい
巣穴に引きこもりたいのだろう
回し車で現実逃避したいのだろう
「でも、ひまくん」
「は、はい……」
「私の膝枕、どうだった?」
私が意地悪く聞くと、ひまは指の隙間から私を見て、消え入りそうな声で言った。
「……柔らかくて……いい匂いがして……幸せでした……」
そして、またプシューと湯気を出して、フラフラと倒れそうになった。
「学習しないな、君も!」
私は倒れかかるひまを支えながら、苦笑した。
検証結果。
『ハムスター系男子は、押しに弱すぎる。そして、許容量を超えると強制終了する』
……取扱注意。優しく接すること。
(第5話 完)
次回予告:
「俺のこと好きだったの? マジで?」
鈍感系筋肉男子、熊谷大樹が登場。
女友達との距離感がバグっている彼に、こころのイライラが爆発!
「お前は熊か! 冬眠してろ!」
次回、第6話『熊系無自覚モテの嫉妬覚醒』。
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