男子取扱説明書がバレて、私の青春が大炎上してるんですけど!?

山田花子(やまだ はなこ)です🪄✨

プロローグ:私の超極秘ノートが学校中にバレた日

 男子というのは、基本的に単純な生き物だ。


 例えば、目の前の彼。

 幼馴染みの大和撫人(やまとなでと)。

 彼は今、私の机の周りをうろうろしながら、チラチラとこちらを見ている。

 口には出さないけれど、全身で「暇だ」「構ってくれ」「頭を撫でろ」と訴えているのが丸わかりだ。

 幻視レベルで尻尾が見える。ブンブン振ってる。


 あるいは、あそこの彼。

 生徒会長の月読零(つくよみ れい)。

 窓際の席でクールに本を読んでいるけれど、ページをめくる手が止まっている。

 視線の先は、校庭で遊ぶ猫……ではなく、実は私だ。

 「僕に気づけ」「話しかけろ」「でも自分からは行かない」という面倒くさいオーラが、背中から立ち上っている。


 わかる。

 手に取るようにわかってしまう。


 私、桜井こころには、ちょっとした特技がある。

 名付けて「こころ察眼(さつがん)」。

 男子の些細な仕草や表情から、その本音や行動パターンを読み取ってしまう、悲しき能力だ。


 この能力のおかげで、私は気づいてしまったのだ。

 男子たちは皆、何かしらの「動物」に分類できるということに。


 犬系、猫系、ハムスター系、あるいは猛獣系。

 彼らの生態は、観察すればするほど面白い。

 だから私は、日々の観察結果をノートに記録することにした。


『男子取扱説明書(動物分類版)』


 これは、私の血と汗と涙(と萌え)の結晶だ。

 誰にも見せるつもりはない。

 あくまで学術的な(?)研究資料だ。

 恋愛感情なんて、これっぽっちもない。

 ただの、健全な人間観察なのだ。


 ――そう、思っていたのに。


 運命の歯車が狂ったのは、ある晴れた日の朝だった。

 私が教室に入ると、いつもと違う空気が流れていた。

 ざわめき。

 視線。

 そして、妙な熱気。


「あ、来た来た! 噂の著者!」

「おいこころ! これマジかよ!」


 クラスメイトたちが、一斉に私を見る。

 その中心にあるのは、見覚えのある黒いノート。

 私が昨日、机の中に置き忘れてしまった、あの「取扱説明書」だった。


 終わった。

 私の青春が、音を立てて崩れ落ちた。


 ノートは既に、クラス全員の手垢にまみれているようだった。

 ページが開かれている。

 そこには、クラスの男子たちの名前と、私が勝手に分類した「動物タイプ」、そして恥ずかしい「攻略法」が、赤裸々に綴られているはずだ。


 逃げたい。

 今すぐ窓から飛び降りて、そのままブラジルまで走って逃げたい。


 だが、現実は非情だ。

 私の周りを、12人の男子たちが取り囲む。

 犬、猫、蛇、ハムスター……。

 私が「動物」だと見抜いた彼らが、それぞれの「本性」を隠そうともせず、私に詰め寄ってくる。


 怒られる。

 絶対に怒られる。

 「勝手に分析すんな」「キモい」「訴えるぞ」と罵倒される未来しか見えない。


 私はギュッと目を閉じて、運命の断罪を待った。


 しかし。

 聞こえてきたのは、予想外の言葉だった。


「……へえ。お前、俺のことそんな風に見てたんだ」


 え?


 恐る恐る目を開けると、そこには――。

 怒り狂う猛獣たちではなく、なぜか頬を染め、目をキラキラさせた男子たちの姿があった。


 これは、私の「男子取扱説明書」が白日の下に晒され、平穏な日常が「逆ハーレム動物園」へと変貌した、その始まりの物語である。


(第1話へ続く)

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