World Xeno

センシ・ロジカ

第1話 Oracle

2089年。

 人類は、自らの脳を仮想へと捧げた。

〈World Xeno〉──それは遊戯ではなく、拡張された現実である。

 十億を超える精神がその領域に沈み、第二の世界は膨張し続けていた。

 境界は形骸化し、現実とは“機軸にはあれど追いやられた旧世界”に過ぎない。


 開発企業EXEX(エグゼクス)のCEO、ユズリハ・ソウイチは

 十周年セレモニーで、世界に宣告した。


 「我々は新たな世界を創るのではない。

  現実そのものを〈伸展〉させるのだ」


 革新ではなく侵蝕。

 産声ではなく“進化の亀裂”。

 その言葉は祝福として受け入れられたが、

 やがてそれが預言だったと、人々は知る。


──一年後、世界は“神意”に目醒める。


 式典を映すモニターを、虚ろな瞳で見つめる少年がいた。

 キサラギ・ミコト。名もなき高校生。

 ただ茫漠たる無数の精神のたった一つに過ぎない。


 そのとき、乾いた通知音が鳴った。

 手元の端末に、一通のメールが届く。


 送信者:Xenon_World Xeno Game Master


 偶然か、試練か、悪意か、祝福か。

 ミコトは判別できないまま、メールを開いた。





件名:おめでとうございます。

あなたはWorld Xenoの最優良プレイヤーに選ばれました。


突然のご連絡失礼します。

私はWorld Xenoのゲーム内を管理するゲームマスターです。

今回、十周年を記念して、私たちが選んだ最優良プレイヤーに対し、特別なアヴァターを進呈しています。


添付のファイルをゲーム内で展開していただければ、受領は完了します。

ただし、配布されたアヴァターを使用するにあたって、ある条件を提示させていただきます。

それを選ぶかはあなた次第です。


もしご興味がおありでしたら返信をお待ちしています。





 添付された謎のアヴァター。

 そして“ある条件”。


 それは、契約書だった。

 人間の未来と引き換えに、神々の遊戯に挑む権利書である。


 ミコトはまだ知らない。

 この日、十億の精神の命運がひとりの少年に賭けられたことを。

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