第31話 トパジオンとギルドの選択
「あんな平凡で何の価値もなさそうな男を監視するだなんて、1位の『勇者』は全くセンスがないと思ったものだが案外使えましたね」
独り言をこぼしたトパジオンは、長い脚を組み替えた。
執務室の扉は、殆どいつも開けてある。
ギルドの紺色の制服を着た隊員が部屋に入ってきて、敬礼の姿勢をとった。
トパジオンは革張りのソファに腰掛けたまま会釈した。
隊員が直立不動のまま、声を張った。
「トパジオン様、報告に上がりました」
「ご苦労さま。どうです?」
「ルーカス並びに酒場のマスターですが、25日前から共に生活し始めたようです。ルーカスは、酒場のマスターと本土でのつながりはありませんでした。酒場を訪れた日が初対面だったようです。一緒に同行していた赤魔導師は現在姿が無く、バッジだけが落とし物としてギルドに届けられていました」
「落とし物、ね……」
トパジオンは指を組む。
隊員は頷いた。
「はい。道で拾ったと、サクラジマに行ってきた高ランク冒険者が届け出ていました。赤魔導師との繋がりはなく、単純な取得物のようです」
「なるほど。フクオカの始まりの街を訪れていた人物が、次にサクラジマ」
「怪しいですね」
「うーん、プンプン匂いますねぇ」
別の隊員が失礼しますと言って入室してきた。
同じ紺色の制服を着込んでいるが、大きな眼鏡をかけている。
「動画調査班、報告です。ルーカスは冒険者になってからこれまで、ランキングの2000位以上になったことがありません。いわゆる底辺という位置です。ここ近年は最下位の冒険者としてリストに名前が上がることも多いと」
「なるほど。最下位でい続けるのは逆に難しいんじゃないですか?」
「はい。しかし、ルーカスはギルドから魔道具を支給された記録がないのです」
「ここ一年ということですか?」
「いいえ、全ての期間において、です」
「どういうことです?」
「我々はルーカスが冒険者となった時からの記録を洗ってみたのですが、ギルドが魔道具を渡したのは最初の1度だけ。それも、全員が必須で貰える基礎の魔道具です。それ以降、ルーカスは魔道具を使っていないようなのです」
トパジオンは部下をまじまじと見つめた。
「この島で魔道具がないっていうのは死を意味しますよね。つまり、魔法が使えない状態で魔物のいる地域で生きる、ということですから……まさか剣とか盾とか、そんな全時代的な武器だけで生き延びてきた? 魔法もなしに?」
トパジオンは長い髪をかき上げてやれやれと首を振った。
「ありえないですね。何かの間違いとしか」
「しかし……ギルドの記録は確実です。魔導具はシリアルナンバーを控えて渡すシステムになっていますし」
トパジオンはふうむと唸った。
「まあルーカスのことは分かりましたけれど、マスターですよ。本命はそっちです。何か分かりましたか?」
「それがですね。ギルドの記録には一応ございました。しかし、これは冗談でも何でもなく、ただ、報告をするのですが」
部下の隊員は歯切れが悪かった。
「えー、酒場『鷹羽』がフクオカにできたのは、120年ほど前です。ギルドの記録をたどっていきましたが、【シラタマ】という名前の冒険者が開いたようです」
「なるほど。シラタマとやらがマスターの正体か?」
「ですが、しかし……何度見ても、酒場ができたと書いてあるのが120年前のことだったのです。 どうやら何しろ前のことですので、生存確認は取れていません。仮にあのマスターという男が白玉であったとしても、120年というのは、その……」
「現実的じゃありませんねえ」
「そうなんです。システム上、冒険者はバッチを紛失したり、1年間登録を更新しなかったりしたら、自動的にリストから抹消されます。死亡したとしても、1年後の再登録期間中に更新されなければ、そのままリストから抹消される。バッジがあり、本人がギルドに行って手続きをすれば復旧はできますが、それも30日までです。日が過ぎると、我々調査班のところにデータが送られ、自動的に本土への移送者に混ぜ込まされる。だとしたら」
トパジオンがあとをひきとった。
「そうですね。白玉は、どこにいってしまったのでしょう?」
紺色の制服の隊員が大きく頷いた。
「しかも、バッジは返却されていません。あの酒場にいるマスターは、120年前の【シラタマ】の冒険者バッジを使い、冒険者になり済ましている」
「いったいどこの何者なんでしょうね。引き続き昔の資料を調べてみてくれますか? 何か分かったことがあれば教えてください」
「はっ了解です!」
眼鏡の男が言った。
「ルーカスとマスターなる男は、佐賀の廃村まで出かけてリンゴの実を採取する際、ポイズンベアに襲われました」
その配信ならば、トパジオンも見ていた。
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