第3話《おじさんに会いに行こう》

 門を抜けた僕達はまず、あの人に会うためテントの密集地から少し離れた場所を進む。


「うふふー。」


「機嫌がいいね。」


「だっておじさんのとこに行くんだもーん。」


 そんな会話をしながら少し歩けば、ポツンと立つそこそこ大きなテントの前にたどり着く。


「おじさーん、きたよー!入るねー!」


「配慮とかしないの?」


 なんてツッコミはするが、僕も気にすることなくテントに入る。

 口だけでも気にしてるだけいい方だろう。

テントの中では、一人の男がバタバタと書類やら銃器やらを片付けていた。

 とりあえず隅に寄せるのを片付けると言えるならだが。僕はギリギリいえる。

「おぉ、よく来てくれた。そこら辺でっ、ちょっと待っててくぅ、れぇぇ!」


 ドンガラガッシャン。お手本のようなコケ方だ。


「久しぶりです、おじさん。他のメンバーはどうしたんですか?」


僕は散らばった物を集めながら話しかける。


「いやぁ、みんな買い出しに行っててな。そんなときにお前たち二人が来るとミツから連絡が入ったんだよ。」


そう言うおじさんの頭からリスが顔を出す。


「ミツお姉ちゃんのリスちゃんだー!さっきいなかったのはおじさんの所に行ってたんだねー。」


 姉さんは動物を使う。姉さん的にはお願いしてきいてもらっているらしい。姉さんの特技の一つだ。本人は謙遜するだろうけど。


「到着までに片付けようと思ってたんだが…」


 おじさんはそう言うが、普段から少し片付けておけばきれいな方だと思う。それに、僕達が来るときは片付けるというのも、なんだかこそばゆい感じがする。


「私は少し散らかってる方が好きだよ?」


 君の場合は少しじゃない。なんてことはわざわざ言わない。今は片付けが優先だ。


「僕も手伝うので、すぐに片付けましょう。そこ、今日くらいは手伝って。」


 ふらふら〜、と奥の方に逃げようとしてた汚部屋の妖精も捕まえて掃除をさせる。逃げようとしたり、みつけた武器おもちゃを弄りだしたりして、結局役には立たなかったなんてことも言わないでおく。こういうのは継続だ。


 15分程して部屋の片付けが終わる。範囲が広いのでそこそこ時間がかかってしまった。


「いやぁ、助かった。改めて歓迎しよう。久しぶりだな、ジグ、テセア。」


「久しぶり、おじさん!」


「おう!元気でよろしい。それ新しい服か?似合ってるぞ。」


「えへへー。でしょー?」


「…。」


「…ジグ?どうかしたのか?」


「ん?あぁ、おじさんも元気そうで良かったよ。」


「おいジグ、もしかしなくてもお前自分の名前を忘れかけてたな?」


「そんなことはないよ」


 久しぶりに自分の名前を聞いて、一瞬反応できなかった自分に驚いていただけだ。


「テセア、定期的にジグの名前を呼んでやれ。じゃないといつか忘れるぞ」


「はーい」


 目の前で失礼な会話をする二人。

 僕でも流石に忘れはしない。が、もう少し使うようにした方がいいだろうか。


「あ〜、でだ。『あれ』もってきてたりするか?」


 迷走しかけていた思考はおじさんの言葉で引き戻される。

 やはり『あれ』が必要だったようだ。持ってきておいて良かった。


「一応持ってきてます。」


「お、おぉ。助かる、いつもすまないな。」


 おじさんにしては歯切れの悪い返事。おじさんは『あれ』の話をするたびに苦しそうな表情をする。


「変な顔しないで下さい。僕達は気にしてませんから。」


「そうはいってもなぁ…。」


 おじさんはなんとも言えない顔で頭を掻く。


「仕方の無いことです。」


 それに、僕達が自分からやっている事だから。まぁ、これで何も思わないほうが変な話かもしれない。というのも、


「私達のおすそわけ!」


僕達が持ってきた『あれ』は、

テセアの抱える鞄いっぱいに詰められた瓶。

その全てに満たされた、錆びた鉄のような赤褐色の液体。


僕達の血液なのだから。

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