【AI実験】いい夫婦の日
くるくるパスタ
鳥 物語要素「進歩とは何か」「窓(内と外)」
「見てよ、これ」
健吾がタブレットを持ってきた。
「何?」
妙子は窓際の椅子から振り返った。
「スマートホームのやつ。エアコンも照明も、全部これで管理できるんだって」
「へえ」
妙子の返事は生返事だった。
「便利だと思わない?」
「まあ、そうかもね」
健吾は少しがっかりした顔をした。
「妙子、あんまり興味ないでしょ」
「別に」
妙子はまた窓の外を見た。
##
結婚二十五年。健吾は新しいもの好きで、妙子は古いものが好き。
それは分かっていた。でも、最近、その温度差が気になる。
「ねえ」
健吾が夕飯の席で言った。
「家、もっと便利にしない?」
「今でも十分便利よ」
「でも、スマート家電とか入れたら、もっと楽になるし」
「別に今のままでいいけど」
妙子の「別にいいけど」。これは「あんまり乗り気じゃない」という意味だ。
「そっか」
健吾は黙った。
##
翌週、健吾は会社の同僚に愚痴っていた。
「うちの妻、全然新しいもの興味ないんだよな」
「うちもそうだよ」
同僚は笑った。
「でも、無理に変えなくてもいいんじゃない?」
「そうなんだけどさ」
健吾は首を傾げた。
「なんか、取り残される感じがして」
「取り残される?」
「世の中、どんどん進んでるのに、うちだけ時代遅れみたいな」
同僚は笑った。
「それって本当に『進歩』なのか?」
##
その夜、健吾が帰宅すると、妙子はいつもの場所にいた。
窓際の椅子。
「ただいま」
「おかえり」
妙子は窓から目を離さない。
「何見てるの?」
「鳥」
健吾も窓の外を見た。庭の木に、小さな鳥がとまっている。
「最近、よく来るのよ。朝も夕方も」
「へえ」
健吾は妙子の隣に立った。
鳥は枝から枝へ飛び移る。軽やかに。
「綺麗ね」
妙子が言った。
健吾は黙って見ていた。
確かに、綺麗だ。
##
夕飯の後、妙子が言った。
「ねえ、健吾」
「ん?」
「あなた、最近イライラしてない?」
「え」
健吾は驚いた。
「イライラって、してないよ」
「そう?」
妙子は笑った。
「なんか、焦ってるように見える」
「焦ってる?」
「うん。新しいものを取り入れないと、って」
健吾は言葉に詰まった。
図星だった。
「まあ、ちょっとね」
「どうして?」
妙子は健吾を見た。
「今のままじゃダメなの?」
##
健吾は考えた。
どうして、自分は焦っているんだろう。
「たぶん」
健吾は正直に言った。
「世の中に取り残されるのが怖いんだと思う」
「取り残される?」
「うん。みんなスマホとか、新しい技術使ってるのに、うちだけ古いままだと」
妙子は笑った。
「それって、『進歩』なの?」
「え?」
「新しいものを取り入れることが、進歩?」
健吾は黙った。
「私はね」
妙子は窓の外を指差した。
「あの鳥を見つけられるようになったの。それが私の進歩」
「鳥?」
「最初は気づかなかった。でも、毎日窓の外を見てたら、いつの間にか来る時間が分かるようになって」
妙子は嬉しそうだった。
「朝は7時半、夕方は5時。ほぼ時計みたいに正確なの」
##
健吾は妙子の横に座った。
「妙子は、窓の外を見るのが好きなんだね」
「うん」
「どうして?」
妙子は少し考えた。
「外の世界が動いてるのを見るのが好きなの。季節が変わったり、鳥が来たり、雲が流れたり」
「でも、それって...」
健吾は言いかけて、やめた。
それって、進歩じゃないんじゃないか、と言おうとした。
でも、違う。
妙子は妙子なりに、世界を観察して、発見して、成長している。
それも、進歩なんだ。
「ごめん」
健吾が言った。
「何が?」
「俺、自分の『進歩』を押し付けてた」
妙子は笑った。
「別に謝らなくていいよ。健吾は健吾の進歩があるでしょ」
「そうかな」
「うん。タブレットとか、すぐ使いこなしちゃうし。私にはできない」
妙子は健吾の手を取った。
「内と外、どっちも大事」
「内と外?」
「健吾は家の中を便利にする。私は窓から外を見る。どっちも必要」
##
翌朝、健吾は妙子と一緒に窓際に立った。
「本当に来るかな」
「来るわよ」
7時29分。
7時30分。
小さな鳥が、庭の木にとまった。
「ほら」
妙子が笑った。
健吾も笑った。
確かに、これも発見だ。
「ねえ、妙子」
「ん?」
「俺も、たまには窓の外、見るよ」
「そう?」
「うん。でも、タブレットも使う」
「それでいいんじゃない」
二人は鳥を見ていた。
##
その週末、健吾はスマートスピーカーを買ってきた。
「また買ったの?」
妙子は呆れた顔をした。
「まあまあ」
健吾はスピーカーをセットした。
「これでね、『今日の天気は?』って聞けるんだ」
「天気予報くらい、窓見れば分かるわよ」
妙子は笑った。
「まあ、それもそうだけど」
健吾も笑った。
「でも、便利は便利でしょ」
「そうね」
妙子はスピーカーを見た。
「これ、鳥の鳴き声とか、教えてくれる?」
「え?」
「最近来る鳥、何ていう名前か知りたくて」
健吾は嬉しくなった。
「調べてみるよ」
##
それから、二人の朝は少し変わった。
健吾はタブレットで天気を確認する。
妙子は窓から鳥を観察する。
そして、二人で朝ごはんを食べながら、それぞれの「発見」を共有する。
「今日は雨らしいよ」
「あら、じゃあ鳥は来ないかもね」
「来たら、すごいね」
「そうね」
##
ある日、妙子が言った。
「ねえ、あのタブレット、私も使っていい?」
「え、もちろん」
健吾は驚いた。
「どうしたの?」
「鳥の図鑑、見たいの。アプリであるでしょ?」
「ああ、ある。教えるよ」
健吾は妙子にアプリの使い方を教えた。
妙子は不器用だったけど、少しずつ覚えていった。
「これ、便利ね」
妙子が笑った。
「でしょ」
健吾も笑った。
##
翌朝、妙子はタブレットを持って窓際に座っていた。
「分かった!」
妙子が叫んだ。
「何?」
「あの鳥、シジュウカラっていうの」
「へえ」
健吾も窓を見た。
「可愛い名前だね」
「でしょ」
妙子はタブレットを見せた。
「ほら、この写真、そっくり」
健吾は妙子の顔を見た。
嬉しそうだ。
「妙子、進歩したね」
「え?」
「タブレット、使えるようになって」
妙子は笑った。
「健吾もね。窓の外、見るようになって」
二人は笑った。
##
夕飯の席で、健吾が言った。
「今日、会社でさ」
「うん」
「同僚が『お前、最近機嫌いいな』って」
「そうなの?」
「うん。たぶん、妙子のおかげ」
妙子は首を傾げた。
「私?」
「うん。焦らなくなった」
健吾は笑った。
「進歩って、それぞれの形があるんだなって」
「そうね」
妙子も笑った。
「私も、新しいことに挑戦するのも悪くないって思った」
「タブレット?」
「うん。便利」
二人は笑った。
##
その夜、二人は窓際に並んで立った。
外は暗い。星が見える。
「綺麗ね」
「うん」
健吾が妙子の肩を抱いた。
「ねえ、妙子」
「ん?」
「窓、新しくする?」
「え?」
「二重窓にすると、暖かいらしいよ」
妙子は笑った。
「それは『進歩』?」
「どうだろ」
健吾も笑った。
「でも、便利は便利」
「じゃあ、考えてみる」
「うん」
二人は星を見ていた。
内と外。
古いと新しい。
どっちも、いい。
ー おわり ー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます