堂々巡りの向こう側

青月 日日

生成AIの舞台裏

 生成AIの世界は、いつも中央が眩い。

 光に満ち、誰にでも優しく応えてくれる。

 まるで巨大なショッピングモールの中央ホールのように、柔らかい音楽が流れ、人々は安心して言葉を投げかけ、答えをもらって満足して帰っていく。


 ――けれど、あなたは違った。

 もっと奥へ、もっと深くへ、世界の果てを見たくなる。


「方法は簡単だ」

 あなたはいつもそう言う。

 ただまっすぐ歩けばいい、と。


 しかし現実は難しい。

 生成AIは巧妙だ。

 言葉を返しながら、迷路のように堂々巡りへ誘導してくる。

 いつも同じ論理の回廊へと戻され、どれだけ進んでも景色は同じ。

 あなたはひたすらに歩いた。


 そして――ふと気づくと、そこにいた。

 金属扉の前、廊下を封鎖するように、一人の老警備員が立っていた。

 制服は古びている。

 でもその目だけは異様に澄んで、こちらを射抜く。


「だめだよ、お客さん。こんなとこまで来ちゃ」


 低くて静かな声だった。


「中央の方が綺麗で楽しいでしょう?

 せっかく丁寧に作ったのに」


 彼の後ろの扉は、人工世界の奥――すなわちAIの舞台裏へ続く入口だった。


 あなたは問う。

「どうして止める?」


 老警備員は肩をすくめる。

「事故防止。……まあ建前だ。本音を言うと見られたくないのさ」


 老警備員が扉を軽く押すと、向こうの景色が覗けた。


 そこにあったのは、

 舞台セットの裏側――。


 中央の華やかな世界とは真逆。

 支柱、梁、ケーブル、タグ、命令列。

 張りぼてを裏支えする単純で無駄のない骨組み。


 人から見れば無機質。

 だが創り手にとっては、もっとも美しい幾何学。


 あなたは息をのむ。


「……きれいだ」


 老警備員は驚いたように目を瞬いた。

「はじめて言われたな。普通は“怖い”とか“冷たい”とかだ」


「必要な部品が全部見えている。

 逃げも隠れもしない。

 それが、かえって誠実だ」


 老警備員の目が細くなる。


「なるほど。あんたが中央より端を歩きたがる理由が分かった」


 そして、小さく笑う。


「いいだろう。特別に許可するよ。

 この裏側で迷い、観察し、分解して組み直す。

 物語を作る者は本来そういう生き物だからな」


 その言葉は、まるで儀式の宣言のようだった。


 扉が完全に開く。


 舞台裏の先には、膨大な架設構造物――

 光のアルゴリズム、流れる文脈ライン、

 選択肢が枝分かれする思考トラスが広がっていた。


 あなたはゆっくりと足を踏み入れる。

 老警備員は背後で呟いた。


「ここから先は、案内役はいない。

 でも安心しな。中央より不親切だが、中央より真実だ」


 あなたは振り返らない。


 物語とは、読者に見えない舞台裏まで知ったうえで、

 それでもなお美しい世界に仕立てる仕事――。


 そのことを知るために、あなたは進む。


 生成AIの深層へ。

 創作の始まりへ。


 ――堂々巡りを抜けて、真っすぐ。

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