鏡のカノジョへ贈る

藤咲403

出会い

人込みは嫌い。

人込み、大きな踏切、車のたくさん行き交う大通り。そして犬

自分の行く手を阻むものは大嫌い。

そんな時俺は自分の姿を反射する大きな鏡(少しでも反射さえしていれば光沢のあるプラスティックでもガラスでも可)を探す。

見つけたらまず指で触り、イケるとわかれば次はちょうど窓から家に入るように戸惑い無く潜り抜ける。

そうすれば鏡の世界だ。

鏡の世界はいい。人込みもない。車も電車も、犬もいない。最高。

すこし勉強すれば鏡文字もわかるようになる。

ドアの開く方向も。地図の見方も。

持ち込んだ道具だって左右逆になる。今では立派な両利きだ。


この世界で僕は王様だ。

大通りの真ん中で寝てもいいし、ショーウインドーのマネキンと並んでもいい

鏡からモノは持ち出せないが、鏡の世界で壊れても問題ない

僕はスポーツ用品店で適当なゴルフクラブとゴルフボールを持って大通りへ向かう

有名な洋画よろしくゴルフの打ちっぱなしと洒落こもう!

あの映画のラストってどうなったっけ…なんて

「……えっ?」

鏡の世界で初めて会った動くもの

ガードレールに女の子が座っていた


「……?」

女の子は僕を見て、不思議そうに首を傾げた。

長い無造作に伸びた髪が地面につく。

ショーウインドーのマネキンが来ているようなパステルカラーの服の少女

長い脚の見える赤いスカートと白いノースリーブ

不釣り合いなゴツい登山靴

「…えっと、こんにちは?」

「こん…にちは?」

いたずらの準備中に出くわしたような気まずさ

その日僕たちは出会った。実に、6月のある日である。

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