第46話 美食を邪魔する者は許さない!
「き、貴様!今何を…!」
投げ飛ばされた皿の中身をまともに浴びたエリカが、怒鳴り声を上げた。
「こんなまずい物はもう食べたくない!人間界征服はさせない!」
「この…っ!」
エリカは髪にこびりついたステーキを投げ捨てると指をクイクイと動かした。すると、待機していたレイが、空間から刀を抜き出し魔王に襲いかかった。
パキンッ!
魔王の首にぶつかった刃がガラスのように割れた。
「なっ?!」
虚空に舞い散る魔剣の欠片を見たエリカは目を見開いた。
「あたし、人間界征服なんていや!」
魔王はエリカに近づいた。怖くなった夢魔は後ずさりをした。
「け、剣士!何しておる!あの『
レイは刀身が壊れた柄を放り投げ、また拳を握った。すると、粉々になった刀が消えた。また拳を握ると空間から復元された刀を抜き出された。
カーン!
レイは魔王の背中を狙って刀を叩きつけた。だが今回も刀が折れるばかりだった。魔王は進み続けた。
「あり得ない…下級魔族ごときの『
レイは何回も斬ろうとしたが、魔王の体には傷一つ残せなかった。
魔王はエリカの前に立ち止まった。
「人間界はあたしが守るから!」
魔王は目をぎゅっと瞑って空高く手を振り上げた。
「えいっ!」
魔王の小さい手が鋭く振り下ろされた。
ドォォォォン!
手刀がエリカの脳天を直撃した瞬間、猛烈な衝撃波が四方に吹き荒れた。魔王にもう一撃を食らわせようと飛びかかっていたレイが吹き飛ばされた。
「カハッ!」
間の抜けた声を上げたエリカはそのまま床に叩きつけられた。眼帯は外れ、右目が露になった。瞳から蝶の模様が消えて色は左目と同様赤く染まった。
「人間界の食べ物をダメにする人は誰だって許さない!」
魔王はピクともしなくなったエリカに告げた。
晩餐室に亀裂が走り、崩れ始めた。下に空洞ができたように周りのすべてが下に落ちて行った。エリカも、レイも、食卓も、何もかもが。空間に残ったのは魔王だけ。
魔王は暗い周囲を見回した。鉄格子で遮られた部屋が目についた。魔王はその部屋の方へ歩み寄った。
「セナちゃん!」
鉄格子の向こう、物置の部屋の中にはしゃがみこんでいるセナがいた。
「私にはここが一番相応しい。誰にも必要とされていないから。」
魔王は鉄格子を鷲掴みにしてまるごと抜き出した。セナは驚いた顔で魔王を見上げた。
「あたしはセナちゃんが必要だもん!ここから出よう!」
魔王はセナに手を差しのべた。だが、セナはまた膝に顔を埋めた。
「むっ!」
魔王は頬を膨らませると、セナを抱き上げた。
「えっ…!」
「ここよりいい部屋はたくさんあるから!」
魔王は物置の部屋の外へと足を踏み出した。一瞬目の前が白く光った。魔王が出たところは102号室だった。
ところが、胸の中にいたはずのセナの姿が消えていた。
「セナちゃん?」
魔王は振り向いた。夢への出入り口が消えていた。そしてベッドの上には眠っているセナがいた。
「え?まだ寝てる?」
「大丈夫よ。夢魔は連れ出した。」
レイが部屋の片隅でエリカを縄で縛っていた。
「くそっ!我の『
エリカは悔しそうに呟いた。
「レイちゃん!友達をそんなふうに扱うなんて酷い!」
「誰が友達なのよ?」
「エリカちゃんよ!夢の中でサーヴァントになったじゃん!」
「どういう話?」
レイはエリカを跪かせて疑問符を浮かべた。
「仲良しになる
「なんの話かさっぱり分からない。」
レイは少し眉をひそめた。
「ククッ…我には凄まじき『
「次があると思う?そんな能力があるって知ったら、行かせないでしょ?」
レイは空間から刀を抜き出してエリカの首に当てた。
「斬るが良い!」
言葉と違ってエリカの体は酷く震えていた。レイは刀をエリカから少し離してみた。すると、震えが弱くなった。
「我の右目の『
レイは再び刀をエリカの首に近づけた。エリカは体を強く震わせた。
「体は嘘をつけないよね。」
魔王はエリカの眼帯を外して瞳を見つめた。
「蝶の模様がない!」
「何?!」
戸惑ったエリカの震えが止まった。
「ほら!」
魔王は引き出しから手鏡を取り出してエリカの顔を映してやった。
「わ、我の『
エリカは悲鳴を上げると魂が抜けたように、ぐったりと項垂れた。
「いきなり何?」
「仲良しになる
「じゃ、殺すまでもないね。」
レイは刀を空間に差し入れておいた。そしてエリカを担ぎ上げた。
「この夢魔は私が閉じ込めておく。お休み。」
レイはドアに向かって歩み出した。
「あの…!」
「何よ?」
「セナちゃんはここで寝かせていい?」
レイは寝ているセナをちらりと見た。
「好きにして。夢魔に襲われた日は大人しくなるから。」
レイは魔王の答えも聞かず部屋から出て行った。
「へッ。」
魔王は楽しげにセナの傍で横になった。不思議なことにセナは魔王に絡みついてこなかった。その代わり、魔王が幸せそうにしがみついてスヤスヤと眠りについた。
***
地下深く、薄暗い牢屋の中でフードを被った囚人がノートに何か記録していた。どこにも蠟燭はない。燃える蝶たちが彼女の周りを飛び回って明かりを照らしていた。
「今日はここまでにしよっか。」
彼女は羽根ペンをインクに差し込んでおいた。その時、周囲の蝶のうち一匹から火が消えて地面に落ちた。
「あれは失敗か。」
囚人は蝶が落ちた方向を見て呟いた。
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