第31話 魔槍を避ける最強(?)の使い魔
魔界ではネズミが勇者の近づいている証とされていた。ネズミは人間界の動物で勇者パーティーの荷物に混ざって魔界まで紛れ込む傾向があったからだ。
つまり、ネズミは勇者の使い魔。魔界では不運の兆しと認識され、見たらすぐ駆除するのが掟になっていた。
「うっ、いまいましい。」
魔王は青ざめた顔で眉をひそめた。正確には彼女が目の前にしたのはネズミじゃなくてハムスターだったが。そんなことは彼女にとって重要ではなかった。魔王はバケツを階段においた。
「消えろ、勇者の手先!」
そして魔槍を召喚し、ネズミに力一杯投げつけた。でも血が飛ぶのは嫌だったので槍が手から離れる瞬間目を閉じた。
「チュッ!」
ハムスターは槍の速度に反応すらできなかった。しかし、体が貫かれることはなかった。魔王の槍投げが下手過ぎて、大きく外れてしまったのだ。ハムスターは平然と魔王を見上げていた。
「え?あたしの槍を避けるなんて!」
目を開けた魔王は驚いた。彼女は再び魔槍を召喚し、目を瞑ったまま勇者の使いを狙った。今回もハムスターは動かなかった。もちろん、槍は外れ。だが、先よりは的に近かった。
「キィッ!」
驚いたハムスターはお尻を振りながら逃げ出した。
「待て!君を逃がすと運が悪くなるんだもん!」
魔王は床に突き刺されている槍を抜き出した。彼女にとってハムスターに追いつくことは難しくなかった。その小動物をすぐ後から追いかけながら槍を突き出した。そのたびにハムスターはジグザグに攻撃を避けた。
「やっぱり勇者の使い魔。」
魔王は業を煮やして槍をバットのように振り回した。ハムスターは左右に転がったりジャンプしたりして必死に走った。それを数分、いよいよ魔王はハムスターを廊下の端っこに追い詰めることができた。
「いい戦いだった。さようなら!」
魔王は今回こそお仕舞いにする覚悟で目も閉じず、槍を突き刺した。ところが、ハムスターは槍をいなし、床に突かれた槍にくっついた。引き続きすごい勢いで柄を駆け上がって魔王の顔に飛び上がった。
「ヒイイイッ!」
奇襲を受けた魔王は倒れ、壁に頭をぶつけた。
「いてぃてぃ!」
魔王は後頭部を抱えて床を転げ回った。その間、ハムスターは隣に開いていた通気口に入ろうとした。しかし頬がパンパンすぎて鉄格子を通ることができなかった。
「チュッチュッ…!」
焦ったハムスターは急いで口に咥えていたものを何個か吐き出した。ちょうどその時穴に逃げようとするハムスターを見た魔王は飛びついて掴もうとした。残念ながらハムスターは一足早くニュルっと格子を通ってしまった。
「ダメ…!」
魔王は通気口の中を覗いて呟いた。
「チュッ、チュッ、チュッ。」
ハムスターは狭い穴の中で魔王をあざ笑っているように見えた。
「え?今あたしをバカにしたよね?!」
ハムスターは答えず暗闇の中へと消えて行った。
「こら、待って!どこへ行く気なの!」
魔王はハムスターを呼んでみたが勿論戻ってくることはなかった。彼女は唖然として上半身を起こした。すると周りに落ちている七つの粒が見えた。その中の一つを拾ってみた。黄色くて丸い石のように見えた。
「こんなものまで捨てていくなんて!」
イラっとした魔王は落ちている粒を全部ポケットに入れてバケツのある所に戻った。
「絶対に逃がさないから!」
彼女は雑巾を折り畳んで猫の形にした。
「ネズミを探して!」
呪文を唱えると猫が一瞬光った。光がなくなったら四つ足で立ち、階段から跳ね下りた。猫がネズミ探索を始めたのを見て安心した魔王はあくびをした。
もう限界だった。魔王は手を二回叩いた。すると召喚されていた槍が黒い靄とともに消えた。彼女はバケツの後処理をしてから部屋に入りベッドに倒れた。まだ寝ているセナが手足を絡めてきた。
「ケッ、息苦しい…」
疲れていた魔王はセナの寝相に苦しみながらもすぐ眠った。
「マオウノ様、マオウノ様。」
時間がどのくらい経過したことか。魔王はセナに揺り起こされた。
「何…?」
「お休み中申し訳ありません。社長のお呼びでございます。」
魔王は開かない目をこすりながら社長室までセナについて行った。ドアを開けるとすぐ傍に謎のオーク樽が置かれていた。それをじっと見ているとなんだか震えているように見えた。魔王は大樽を触ってみようとしたが、セナに手首を引かれ、机の前に立った。
「マオウノ様、しっかりしてください。」
セナの言葉で魔王はちゃんと目を開けた。そこには社長とレイ、そして夜中に星ウサギを狩りに行った冒険者たちが集まっていた。
「こいつだ!」
「俺らの宝石返せ!泥棒!」
二人の冒険者たちは魔王を見た途端叫んだ。
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