第20話 バレなければ褒められる!
魔王はうたたねの宿まで無事に帰った。配達を成功させた彼女は嬉しくて、
「ミッションコンプリート!」
とロビーの入り口を開けるや否や右手をあげ、ピースをしようとした。
ちょうどその時、四人組の冒険者たちは宿から出ようとしていた。四人ともムキムキで、頭を下げないとドアを通れないぐらいの大柄な男たちだった。華奢な魔王はドアを開けようとしていた彼らとぶつかってしまった。
「うわっ!」
ドガラガッシャーン!
ぶつかった四人の冒険者たちは大きな音を立てながら転んでしまった。
「え?」
魔王は彼らの転がる音にちょっと驚いただけで全然平気だった。
「おい、人の進路塞いでんじゃねぇぞ!」
一番前で転んだ男は立ち上がって魔王に怒鳴った。
「ヒイッ!」
魔王はビビッて通路の脇に下がった。壁のそばにある棚に背中のカバンが当たって上に飾られている陶器の壺が少し揺れた。怖がる魔王を見て、怒鳴った男の仲間たちが口々に言った。
「お前、いい加減にしろよ。ただの小娘だろう?」
「そうだよ。お前、足もつれたろう?」
「狩りに出てこうだと困るからよ。」
一番前の男は文句を言った。
「本当にこいつとぶつかったんだって。壁みたいに硬かったんだよ!」
「いいから出ろよ。」
「急いでるんだぞ。」
「男がぶつぶつ言いやがって。」
三人の冒険者は彼を押して出て行った。
「ごめんよ、嬢ちゃん。怖かったでしょう。」
一番後ろの冒険者は魔王に謝ってドアを閉じた。騒ぎが収まり、魔王は今度こそカウンターにいるはずのセナに向けてピースをして見せようとした。ロビーのドアを見ていた魔王はくるりと振り返り、手を伸ばした。
「ミッションコンプリート!」
というセリフの後に、
ガチャン!
という何か割れる音が響いた。後ろを見てみたら、棚の上に飾られていた壺が割れていた。
「ヒイイイッ!」
魔王は反射的にカウンターを確認した。そこにセナはいなかった。魔王は配達を完璧に成功したことをセナにちやほやされたかった。なのに帰り際、こんなことをしでかすなんて。
壺を割っても大丈夫って言ってくれるだろうけど、それはもう成功へのご褒美じゃなくて、失敗への慰めになってしまう。魔王は今日、セナに今から頑張ろうと応援されるかわりに、今までお疲れ様と褒められたかった。
幸い、セナはまだこの事態を見ていなかった。バレなければ褒められる!魔王はセナが帰る前に掃除をしておくことに決めた。
「急がないと!」
魔王はセナと共に使っている部屋へ走り、ほうきを持って戻って来た。
「よし、これで…あれ?」
魔王は目を疑った。床に散らばっていたはずの壺のかけらがどうしてか全部消えていたからだった。
「マオウノ様。」
首を傾げる魔王の後ろでセナの声がした。魔王は緊張して石像のように固まってしまった。
「いつお帰りになりましたか?お疲れ様でした。」
「い、今着いたよ。」
魔王はセナを見ないまま答えた。
「なのに掃除まで!いけません、マオウノ様。お休みになってください。」
セナは魔王の手からほうきを取った。
「掃除は配達担当の仕事ではありません。今はロビーも綺麗でございますし、私が後ほどいたしますから。」
「そうだね。でもかけらとか落ちているかもしれないじゃん…」
「かけらですか…?今見当たるものはありませんが…」
セナは床を覗き込んだ。割れた壺も、その破片も全く目撃していないようだった。魔王は一安心しながらも誰が破片を片付けたのか気になった。
「それより、配達はいかがでしたか?」
魔王はセナが聞いてくれて嬉しかった。自分の成功を自慢したかったのだ。
「うん!今日は完璧だったよ!道にも迷わなかった。」
「途中でつまみ食いなどはなさいませんでしたよね?」
魔王は予想していなかった質問に言葉に詰まった。どうしよう!彼女は確か、屋敷に着く前に一口食べてしまったのだ。セナは心を見透かすような澄んだ瞳でじっと魔王を見つめていた。
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