第2話 吐露

「落ち着いた??うちの隊長がいきなり殴ったりしてごめんね。私たちは政府の命令で組織された対“わるもの”特殊部隊、Jitっていうの。私はにゃる、よろしくね。」


差し伸べられた手を取る。これさえも私にとっては大きな一歩だった。エレンとにゃるの他にもそこそこの人数がいる。が、私に友好的なのは彼女だけみたいだ。


「おい、喋りすぎだぞにゃる。相手を信じすぎるのはお前のいいところだけど悪いところだ。ニュートラルな立場を意識しないと。」


「ごめん、気をつけるよ。」


「それでお前、なんでこんなことしたんだ??何か理由があってのことだろうけど、あまりに被害が大きすぎる。ていうか名前聞いてなかったな。俺はキャス、よろしく。」


想像していた流れとだいぶ違う状況に戸惑いながら、初めて口を開く。


「私はハイライト。あのまま殺されるもんだと思ってたから、こうやって話しかけてもらえてすごく嬉しい。」


開口一番出てきた言葉は「嬉しい」だった。正直自分でも驚いている。懐かしい言葉だ。


「そう言ってもらえてうれしいよ。まずJitとしてお前に伝えなきゃいけないことがある。お前は政府が指定した最重要指名手配犯の1人だ。俺たちはお前たちを捕まえて事情を聞いたのちに適切な処罰を下す必要がある。今日はそのためにここに来た。先ほどはうちのエレンが手荒な真似をして申し訳なかった。俺からも謝罪させてくれ。」


随分と丁寧な青年だ。


「きみたちが謝る必要なんてどこにもないよ。にしてもまさかそんな指名手配犯だなんて大層なものに指定されてしまったなあ。でも、迷惑かけたのは事実だし私はきみたちの指示に背くつもりはないよ。」


「そのことなんだけどさ!」


小さな洞窟に明るい声が響き渡る。にゃるだ。


「お前なあ。まあいい。いずれ話さないといけないことだ。お前の方から話してくれ。」


不穏な空気が漂う。いくら“わるもの”といってもこの雰囲気はやっぱり怖い


「あのね、私たちはただあなたを捕まえるためにここに来たわけじゃないの。もちろんあなたがやったことはいけないこと。でも使い方を変えたらあなたの力は沢山の人の役に立つと思うの。だから協力してほしくて。」


手を組もうと誘われてるということなのだろうか??


「さっき話した最重要指名手配犯、あなたの他にあと4人いるの。その“わるもの”たちを私たちと一緒に捕まえてほしいの。」


「俺の方からも頼む。正直いまの戦力のままあと4人の“わるもの”を倒すのは難しい。お前の力が必要なんだ。エレンもちゃんとお願いしてくれ。」


エレン。正直かなり嫌そうだ。全てが表情に出てしまうタイプなんだろうな。


「正直お前みたいな奴の助けを借りるくらいなら死んだほうがましだと思ってたけど、背に腹はかえられないからな。頼む。協力してくれ。」


こんなに多くの人に求められたのは初めてだ。なんだか胸がざわざわする。


「正直ね、うちのパーティはあんまりチームワーク良くなかったの。それでね、いっつもあれはお前が悪かったいやお前が悪かったって“わるもの”探しみたいになっちゃって。でもね、相手の気持ちを考えて話し合えばきっと分かり合えることもあると思うの。これって“わるもの”狩りにも言えることだと思わない??」


「というと??」


「難しいんだけどね、私たちはあなたたちのことを最初から“わるもの”だって決めつけて対峙することしか考えてなかった。政府もそうだよ。でもね、それは違うんじゃないかってみんなで考えたの!なんか根本的な解決につながってないっていうか、自分たちを正義と仮定した時の世界しか見えてないって思ったの!だからあなたのこといっぱい教えてほしいなって。」


全視線が自分に集中する。ちょっぴり汗が出てきた。“わるもの”だって緊張するのだ。


「ありがとう。きみたちの事情は分かったよ。あんまり上手く話せないかもしれないけど、私に答えられる質問だったらなんでも答えるよ。それで、何から話せばいいかな??」


「そうだな、それじゃあ今回の事件を起こした動機を教えてほしい。そういえばもともとこの話だったな。」


「分かった。あれは2年前くらいだったと思う。私がまだ人間だった時の話だ。」


ああそうだ。あれはまだ、世界に何色もの色が存在していた時。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る