第一章

第1話『夢じゃない』

 夢なのかもしれない。


そう思ったのも束の間、冷たい空気が肌に触れる感覚や土の湿り気の具合からこれが現実ではないかというふうに思ってしまう。


これが俗にいう異世界転生というものなのだろうか。そう思い、とりあえず自分の状況を確認する。


自分の手元には何もなく、本当に寝た時の姿のまま。上下スウェットのパジャマで、スマホも何もない状態だった。いつも感じる別の不安が頭をよぎった。


ー何もない…帰れなかったらどうしよう


とりあえず、人を探そう。と心に決めて歩いた。


 しばらく、歩いてみたが、街の一つも見当たらない。とりあえず、魔物のような生物がいる気配はなく、鳥と虫と時々鹿を見かける程度だった。生態系も元々いたところと何も変わらないかもしれないと思いながら歩き続けた。朝はあんなに東の下にいた太陽が、太陽がてっぺんに登っていた。


「誰かいませんかー!」


先ほどからずっとこんな風に声を出しているが特に返事もなかった。


 また、しばらく歩いていると今度は小屋を見つけた。本当に小さな小屋だった。あそこに人がいるかもしれないと思い、近づいたが、小屋の周りに人がいる気配はなかった。小屋の扉にはよく分からないものが書かれたプレートが掛けられていた。ノックして、


「誰かいませんか。」


と声をかけたが、特に何の反応もなかった。意を決して扉を少し開けて、


「…失礼します…。誰かいませんか…。」


と言ったがやはり音沙汰はなかった。中に入ると、そこはどうやら倉庫のようだった。毛布が少しと、薪とよく分からないものがたくさん置いてあった。部屋の隅に置かれてある布のようなものが大変目を引いた。布を引っ張ると中からライフルのようなものが出てきた。


「ひっ!」


思わず声が出てしまった。


ーライフル初めてみた。


この世界ではライフルが主流なんだろうかと考えていると、小屋の外から足音がした。少しずつ近づいてくる足音と先ほどのライフルのことを考えると体が恐怖で震えた。


ーどうしよう!どうしよう!


逃げることもできず、その場にうずくまっていると話し声が聞こえてきた。


「**、****!」


「****、**…。***!」


何を話しているのかは分からなかったが二人いることだけは分かった。心臓がバクバクしていた。いきなり拳銃を向けられて、殺されたらどうしよう。そんなことばかり考えていた。


 扉が開く音がする。光が入ってきた。


「あの、私…!」


拳銃で撃たれる前に交渉すれば、大丈夫かもと思い、声をかけた。すると、男は拳銃を向けてきた。


「***!」


「私は迷子になっていただけです…!勝手に入ってごめんなさい!」


「****、***!」


あれ?違和感を思ったのは、その時だった。


私はこの言語を知らない。


英語でも日本語でもない。聞きなれない発音。言葉が通じないのだと恐怖に駆られた頭で考えた時、生存は不可能ではないかと思った。


しかし、違和感を感じていたのは、私だけではないようで、男は拳銃を下ろすと、もう一人の男と一緒に顔を見合わせていた。


「*****、******…。」


「*****?」


「****、*********、******。」


二人は話をしていた。その間私は何も分からずにただ自分よりも上にある。男の顔を見ていた。どうやら、軍人のように見える。二人とも黒色に赤の線が入った軍服を着ていた。


ヨーロッパ系の顔をした男たちは話が終わると私の方を向いた。そして徐に私の腕を男が掴んだ。このまま連れて行かれるのだろうか。


それだけは嫌だ。何とかしなくてはと思い、とりあえず、足を何とか持って行かれないように耐えようと思ったが、そんな抵抗も虚しく、


「****!」


と何かを言われ、拳銃を向けられたため、おとなしくついていくしかなかった。

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