八回目の断罪を回避する悪役令嬢は、完璧すぎる執事(魔神)の知識で世界を裏から支配する
不死鳥
第一章:八回目の断罪、完璧な執事と知恵の剣
第1話八度目の朝と孤独な作戦会議
ローズフィールド公爵邸の最上階、アリシアの私室。八度目の夜明けは、深い絶望の後に訪れる、冷たい現実の再演だった。
天蓋付きのベッドで目覚めたアリシア・ローズフィールドは、まず自身の呼吸の深さを確認した。規則正しい呼吸。しかし、魂は七回の死と再生の記憶で、張り詰めた弦のように軋んでいる。特に鮮明なのは、七度目の人生の終焉――喉を焼く毒の感触と、リリアン・フィッシャーの瞳の奥で光った、あの恐ろしい虹色の微光。
その虹色の微光こそが、リリアンが単なる悪女ではなく、世界の法則を弄ぶ「異能の破壊者」であることを証明していた。だが、アリシアを真に苦しめるのは、その後に訪れる、ノーフェイスによる時間回帰の耐え難い痛みだ。
「……また、ここから。この一連の出来事が、世界に定着した『法則』だとでもいうの?」
アリシアは重い体を起こした。その心は、まるで氷でできた鎧に覆われている。感情という名の最も脆い武器は、この八度目の戦いで封印されている。
ノックとともに、専属執事のノーフェイスが音もなく入室する。彼の完璧な立ち姿は、周囲の人間には「公爵家が裏で雇った、腕の立つ有能な執事」としてしか認識されていない。彼こそが、アリシアと「生命維持」を目的とした契約を結んでいる、異界の強大な魔神であることは、アリシアの最も深い秘密だった。
「アリシア様。おはようございます。本日のご予定でございます」
彼の青い瞳は、彼女の秘密を知りながらも、感情を一切映さない。
「ノーフェイス。今日の予定と、破滅の確率は?」アリシアはシーツを整えながら尋ねた。
「本日は定刻通り、正午に王城での午餐会。その後、午後三時の茶会にて、エドワード殿下よりあなた様への追放の断罪が執り行われます。確率は過去七回同様、変動なく100%でございます」
ノーフェイスは、魔道具のタブレットを取り出し、冷静に過去のデータを提示する。
「七度目の敗因は、リリアン嬢が『世界線操作』の魔力を解放し、殿下の決意を完全に固定化した点に尽きます。この100%は、その固定化された信念の強固さを反映しています」
アリシアは、ノーフェイスにしか見えないタブレットの画面に、リリアンが操作したと推測される特定の幾何学模様の記号が表示されているのを見た。それは、ノーフェイスの魔神の力が介入するのと逆の位相を持つ、極めて危険な記号だった。アリシアの心に、「リリアンの背後には、ノーフェイスの力さえも超える、別の法則が働いているのではないか」という疑念が芽生える。
「あの光り輝く正義の王子様を、私がどうにかしなければならない、と。全く、骨の折れる作業だわ」アリシアは冷淡に呟いた。
「五度目のループでは、公爵様が外交的な圧力を受けた際、『娘の命が助かるならば、公爵家の名誉は二の次だ』という判断を下しました。公爵家が所有する古代文献の記録を照合したところ、これは、公爵様の血筋に深く根差した『人道的な愛』が、論理的な判断を妨げた結果、というデータが出ております」
「父の優しさが、この世界では足枷になる……」アリシアは自虐的に呟き、公爵への愛情と、作戦遂行のための冷徹な理性との間で、わずかに苦悶した。
「今回は、プライドを捨てるわ。そして、この悪役令嬢としての演技を徹底する」
その時、侍女のミリアが、怯えながら部屋に入ってきた。
「アリシア様……大変申し上げにくいのですが、昨晩、庭師の不手際で、あなた様が大切にされている青い薔薇が一本、折れてしまいました……」
アリシアは、ノーフェイスが教えた「演技」の表情を完璧に作り出した。冷徹な微笑を浮かべる。
「ミリア。私の最も愛する薔薇を折ったのね。分かったわ。では、その庭師には、彼が最も愛するものを壊す報復を命じなさい。彼の『愛する息子』を、明日から一年間、公爵家の奴隷として使役しなさい。いいわね?」
ミリアが退室した後、アリシアは表情を元に戻した。ノーフェイスは静かに頷く。「完璧な演技です。この悪評こそが、今日のあなたの論理の盾となります」
「ノーフェイス。私が使うのは、あなたの魔神の知識、つまり『世界の裏側の情報』よ。王城の構造、警備ルート、そしてリリアン嬢の真の帳簿の隠し場所。すべて私の頭脳に転送しなさい」
ノーフェイスは、跪き、アリシアの額に触れる。この世界の魔法機構、政治構造、経済の流れ、そしてリリアンが隠したシステムのバグに関する膨大な情報が、洪水のように流れ込んだ。
「情報転送完了。知識の利用方法の判断は、契約者であるあなた様にお任せいたします」
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