ⅩⅠ‐Ⅱ.今、一歩踏み出して
39.“ちょうどいい関係”を壊すとき。
「うう……ん……」
微睡みの中からはい出した私は、手元を探る。やがて、近くにあったスマートフォンを掴み、画面を付け、時間を確認する。
「四時…………」
夕方の、ではない。
朝の四時、だ。
どうやら私はPCの前で突っ伏して寝てしまっていたらしい。顔に変な跡が付いていた。けど、それよりも目立つのは涙の跡で、
「ああ……」
段々と記憶が蘇ってくる。
そうだ。私はアイの言う通り、
その内容は様々だ。本当にちょっとだけ会話の俎上に上げただけのものから、話題の中心になっているものまで。中には私への文句みたいな内容もあったけど、その殆どが肯定的だった。
そして、私は知ってしまった。
恐らく、こんなことでも無ければ一生触れることは無かったであろう、幼少期の和が抱き、そして、今もなお、心の奥底にしまい込んでいる想いを。
『そりゃそうだよ。だって、あの子のこと大好きだし』
『駄目……というより、そうしておきたいんです。あの子にとっての、心が休まる相手なら、それでいいんです』
『分かんない。分かんないけど、やっぱり気になるよ。そりゃそうだよ。好きなんだもん。嫌われたくないし。だから、今のままで良いんだ。』
ああ。
そうか。
私はずっと怖かったんだ。
和もまた、自分のそばを離れていってしまうんじゃないかって。
どうせ、こいつも「あいつら」と同じだろって。
でも、違ったんだ。
和はずっと私のことを見続けていたんだ。幼き日に生まれた、淡い気持ちを胸に抱いて。
もしかしたら……いや、恐らくは私ともっと仲良くなりたかったに違いない。もっと知りたいし、もっと自分のことを知ってほしい。もっと、もっと。
けど、そうはしなかった。何故か。
それは「
それならば、自分が引こう。想い人の気持ちを尊重しよう。もしかしたら一生、気持ちを伝える機会は訪れないかもしれない。けど、それでもいい。だってそれが、
正直なところ、もし今、和に想いを伝えられたとしても、返事が出来るとは思えない。
そりゃそうだ。私にとっての和は、ただの幼馴染だ。
けど、大切な幼馴染だ。
絶対に失いたくない、かけがえのない存在だ。
玄関口で倒れこんでいるアイツを見た時、私は生きた心地がしなかった。意識が戻って、会話が出来るようになってからも、もう何回か、あの日のことを夢に見るんだ。もう二度と、あんな光景は見たくない。
「歌ってみた……って言ってたな」
ライブに出よう。
それで何が変わるのかは分からない。もしかしたら、何も変わらないのかもしれない。
ただ、ひとつだけ言えることがある。
もしここで、私がライブの出演を断ったら、きっと今まで通りのままだ。
アイツの心を動かすには、これまで散々「届かないと諦めてきた想い」に応える必要がある。いつか叶えたいと言っていた、「
アイは「歌みたを見て」と言っていた。3Dと2D。絶対に覆すことの出来ない問題の解決策がそこにあるというのだろうか。
私は“幽”のチャンネル、その「歌みた」のリストを開き、ざっと眺めていく。
その中にふと、気になるサムネイルがあった。他のサムネイルよりも明らかに平面的な絵柄。タイトルは「鏡の中のシンデレラ」。
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