ⅤⅠ.避けては通れないホラーゲーム実況
17.どうしてVtuberは焼肉に行きがちなのか?
「はーい開けました~こんばんはー
「…………はい、
照月、もとい
「ちょっとーテンション低いよ~?盛り上がっていこうよー」
「いや……だってやりたがってたのは輝月であって私じゃないじゃん」
「そうだけどさー……ほら、リスナーさんも楽しみにしてたって言ってるよ。なにせ久しぶりのオフコラボだしね!」
「くっそこいつら他人事だからって……」
私はちらりとコメント欄を見る。
そこには「セレナよくやった」だの「どんな声で鳴くのか楽しみ」みたいなコメントばかりが並んでいる。ちくしょう。ここには味方はいないのか。
だから、嫌だったんだよ。ホラゲーの実況なんてやるのは。企画で呼ばれたりしない個人勢だから、私がやる選択をしなければこんな事態にはならないと思ってたのに。
一体どうしてこんなことになってしまったのか。気になりますよね。それでは、約一週間ほど前まで時を戻してみましょう。
え?私?私に時を戻す力なんてあるわけないだろ。このまま和の見守りとかいう後方腕組み愉悦幼馴染を隣に添えて嬉し恥ずかし初ホラーゲーム実況だよ。言わせるな、恥ずかしい。じゃあ今から流れるのは何だって?もしかしたら走馬灯かもしれないね、うふふ。
◇
「それじゃ、二人の活動一か月を祝って、かんぱーい」
「ほい、乾杯」
和の音頭に乗っかる形で乾杯をする。ちなみに、乾杯とは言っているが、和が飲んでいるのはコーラ。そして私が飲んでいるのは烏龍茶だ。なんでこのラインナップでアルコールを含めた飲み放題なんて頼んじゃったんだろうね。まあ、展開によってはこの後私は飲むと思うけど。
あ、和は駄目ね。この人クッソアルコール濃度の低いその辺のコンビニで売ってるような缶チューハイ一杯で爆睡出来るくらいの弱さだから。しかも、この後も案件絡みでやることがあるとのことで、「絶対にお酒飲ませないでね!」と釘を刺されている。
別にそんなこと言われなくても飲ませないけどな。その辺のパワハラ上司じゃあるまいし。まあ、ここのところずっと忙しそうにしている和を無理矢理休ませたい気持ちが無いわけでは無いんだけど、ホントこの人、ほどほどってことを知らないから……。
「んじゃ、焼いていきますか」
「ますかー」
乾杯した飲み物を横に置き、私達は既に手元に届いていた肉たちを鉄板の上に並べていく。つくづく思うんだけど、なんでVtuberが集まって食事ってなると焼肉が多いんだろうね。
最近は自分が活動をしているのもあって、Vtuber系の切り抜き動画がレコメンドされることが多い関係でその辺の情報も入ってくるようにはなったんだけど、食事に行くってなったら、大体が焼肉じゃない?まあ、別にいいとは思うけど。美味しいよね、焼肉。
ちなみに今回の食事も和の奢りだ。ただ、前回とは違って普通の至って大衆的な価格の食べ飲み放題がある焼き肉屋に来ていた。流石の元有名企業Vtuber様と言えど、あの額面を毎回というのは難しいのかもしれない。
「ねえ見て
訂正。こっちの方が肌に合ってるだけかもしれない。
私は鉄板の肉をひっくり返しながら、
「それ、一人一品とかじゃなかったっけ?」
「え?そうなの?」
「そうなの?って……貴方が予約したんですよ?」
「や、そーだけど。なんか前に来たことあるなーってんで何となくで予約したから」
なるほど、その時も先輩に介……お世話されてたってわけか。こいつ、ほっとくとそのうち一人焼肉の店に行って生焼けの肉食って病院に運ばれるんじゃないか?正直怖い。
和が眉間にしわを寄せて、デザートの一覧を眺めながら、
「そっかーひとつかー……うーん……どうしよっかなぁ―…………ねえ、七海」
「私の分はやらないぞ」
「なんで分かったの!?」
ややのけ反る和。いや、だって、ねえ。そのタイミングで私に話を振ってくるなんて「七海の持ってる一個の枠ちょーだーい?」って言ってくるのが目に見えてるじゃないですか。何年貴方の幼馴染やってると思ってるんですか、|北山〈きたやま〉和さん。
「そら、分かるだろ……ほい」
私はトングを持ってない方の手を差し出す。すかさず和がそこに、
「ん」
自分の手元にあった取り皿を乗せる。それを受け取った私は「そろそろ食べごろっぽい肉」をひょいひょいと載せて、
「はい」
「ありがとー」
な?これだよ。これで意思疎通出来る人間がさっきの話の振り方から何が出てくるかくらいわかるでしょ?そういう話。っていうか、今思ったんだけど、こいつの「お世話をされる覚悟が決まってる感じ」ってもしかしなくても私のせいか?もうちょっと自分でやらせた方が良いか、
「あ、私これも食べたい」
「それは豚だからもうちょっと」
「あ、そっか」
うん。ごめん。駄目だわ。突き放したら多分生焼けを食う。確実に食う。そうなると被害がデカいのは和だけじゃないから、やっぱり駄目だわ。
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