3.ビジネスではないかもしれない関係。
どれくらい経っただろうか。俯いていた
「……今日のね、話したいことはそれだけじゃないんだ」
「あ、そうなの?」
私はずっと放置していたホルモンを取り皿に移しながら受け答えする。ホルモンって難しいんだよな……大分焼いてた気がするけど、どうなんだろう。
和が再び切り出す。
「うん……あの、さ。
「…………はい?」
「えっと、Vtuberとして配信とかそういうことをするのに興味ないかなーって」
「うーん…………」
正直、無いわけでは無かった。
なにせ、友人がデビューしたんだ。それなら配信だってちょっとは見に行くし、そうなってきたら他の人の配信も気になってみたりもする。時間もあったしね。おい、誰だ今ニートって言ったのは。ぶん殴るぞ。
で、そんな中で確かに「面白さ」も感じる一方で、「もうちょっとこう出来るんじゃないか?」っていう部分が出てきたのも事実だ。
まあそんなの外から見てるだけだから言えるんだろうけど。やるのと見るのじゃやっぱり訳が違うだろうし。それに、「配信を見る」っていう文化がどうにも肌に合わなかったのもあって結局「見てた」と言えるのは本当に初期の初期だけだったしね。
ただ、興味が有るか無いかの二択で言えば明確に“有る”わけで、
「無い、わけではない」
「ほんとに?」
少し身を乗り出す和。
「お、おう。どうした。なんか前のめりだぞ」
実際に姿勢も前のめりだしね。下にアッツアツの金網あるから気を付けてね?
そんな私の言葉とは関係無しに、
「それだったら、さ。もし、もし、なんだけど。もし、七海が良かったらなんだけど、一緒にデビューしてくれない?」
とんでもないことを切り出してきた?
「デビュー……え?もっかいオーディション受けるの?」
「あ、いや、そういうことじゃなくて」
「え、でもそうじゃないと一緒にデビューって無くない?ほら、いるじゃん。二人でデビューした」
和は私の言いたいことが分かったのか、
「あー……まあいるけど、そういう話じゃなくて。あくまでVtuberとしては別々でって話」
「でも一緒にデビューするんだよな?」
「うん……えっと、ね。よくユニット、みたいなのを組んでるの見ない?」
「ユニット……ああ、あるねえ」
元々は個人が様々な“設定”を背負って物語を紡いできた時代とは違い、今は企業に所属した立派なタレントの時代。そうなってくると当然ながら「ユニット」とか「グループ」みたいなもので押し出していくような売り方もされることがある。
それこそたまたま発生したコンビに名前が付くことだったり、最初からユニット名が決まっていることまで様々だ。
「そう言うのを一緒に組んで欲しいなって思ってるんだけど……どう?」
「や……組んで欲しいって……ちょっと待って。ひとつづつ整理していいか?」
「それは、まあ」
「えっとじゃあ……」
俺は右手を上げて、
「はい!質問です」
「はい、七海くん」
「デビューっていうけど、それはつまり個人Vtuberということですか?」
「そういうことになります。他に質問はありますか?」
「はい!」
「積極的でいいですね。はい、七海くん」
いつの間にかよく分からない「コント:教師と生徒」みたいなことになる。このノリもいつも通りだ。
「一緒にっていうことは、和先生も個人vtuberとしてデビューするということでしょうか?」
「そうですね。そういうことになります」
「なるほど……はい!」
「良いですね。好奇心旺盛な生徒は嫌いじゃないですよ。はい、七海くん」
「ユニットを組むっていうことは音楽か何かをやるんでしょうか?」
「音楽をベースにするわけではありませんが……歌みたとかはやりたいし、最終的にライブなんかも出来たら……なぁって……」
段々と普段の和に戻って来た。多分あまりつつかれたくないところだったのだろう。
でも、聞かないわけにはいかない。
「……ってことはあれ?良くカップリングじゃないんだけど、コンビで名前が付いてるじゃん。あんな感じ?」
「よりもうちょっとユニット感は出したいかなぁって……」
「それはまあいいんだけど……なんでまたそんなことに?」
「なんでって?」
「いや……」
そこで疑問形をぶつけられるとは思わなかったよ。
まあいいや。
「や、だって私も一緒にデビューするっていうことはさ、その為の費用だって当然かかるわけじゃん」
「それは……まあ、そうだね」
「その費用を私が「分かった!それじゃあこれ、費用ね!」っていってポンって出せるような状態じゃないことは分かってると思うから、そこも和が持つってことだよな?」
「それは、もちろん」
もちろん、なんですか。取り合えず自分が払っておくから後から返してねとか、そういうのですらないのですか?
「そんだけの費用を持って、私を一緒にデビューさせて、ユニットを組んで、そこまでしたい理由があるってことだよな?なんでまたそんなこと考えたんだ?」
「それ……は」
何故だか言いよどむ。なんでだ。私のデビューにかかる費用まで出せるっていうのに、その本丸となる、「ユニットでデビューする理由」が言えないのは。
と思っていたら、和が何かを決心したかのように、
「…………前、うちがVVに勧誘したの、覚えてる?」
「あー……あったなぁ」
そう。あったのだ。
和がVVに入って一年以上経った頃だったと思う。和が突然、今日みたいに焼肉に誘ってきたと思ったら「VV受けてみない?」なんて話を切り出したことが。
「あれ、そんなに本気だったんだな」
「あの時は……思い付き……とまではいかないけど、正直難しいかなとは、思ってた。私は、七海の良い所を一杯知ってるけど、それを面接官が理解してくれるかは分からない。けど、個人Vtuberなら、デビューするのだって勝手だし、ユニットを組むのだって勝手。それなら、出来るんじゃないかって」
「まあ言いたいことは分かるけど……そこまでする理由はなんなんだ?」
和が再び言いよどんだのち、
「……ライブが、したいなって」
「ライブ?」
「そう。Vtuberの3Dライブ」
「私と?」
首肯。
「なんでまた……」
「それ…………は…………」
和は言葉をひねり出すように、
「うちはアイ先輩の背中を追うようにして、VVを受けた。その選択自体が間違ってたとは今でも思ってない。思ってないんだけど、ずっと活動をしていく中で、分からなくなってきちゃったんだよね。これでいいのかなって」
「あー……」
正直、そこは私も感じているところでもあった。
いや、実際デビューしたいと言っていたときもそれは感じていた。
確かに、和の推しである
けど、問題はそれ以外だ。
和が好きなのはアイ先輩だ。事務所としてのVVじゃない。その齟齬が、どこかで顕在化しないと良いな。そんなことはずっと思っていた。
和は続ける。
「それで、ね。考えたの。自分がしたいことはなんだろうって」
「したいこと……」
「そう。うちの推しはアイ先輩だし、それは今も変わってないよ。変わってないけど、それじゃあ、うちのしたいことはなんなんだろうって」
そこで和は言葉を切り、
「……正直、考えても答えらしいものは出てこなかった。でも、確かなことがふたつあるのにも気が付いた。ひとつは、VVを辞めたとしても、やっぱりうちはファンの皆が好きだし、皆が望むなら、形を変えてでもVtuberとして活動をしていたいってこと。そして、もうひとつは、七海とライブをしたいってこと」
「……そんなに、なのか」
「うん」
即答だった。そこまでの感情を向けられるようなことをした覚えは無いんだけどなぁ……。
「……うちはね、やっぱり駄目なんだと思う」
「駄目って?」
「七海がいないと」
「え」
「VVだって、うち一人じゃきっと、受かることはなかったと思う。活動だって、こんなに長く続けることも、きっと無理だった。けど、七海がいたから。七海がいつも良いアドバイスをくれたから、うちはここまで来られた。だから、一緒に、ユニットとして、ライブを目標にすれば、見失うことは無いんじゃないかって、そう、思ったんだ…………駄目?」
駄目。
なんて簡単には言えない雰囲気だった。
そりゃ、私だって興味はある。そんなことで和だって助けてやれるなら助けてやりたい。
けど、その先は?
和はこの先もずっと、私のことを頼って生きていくのか?私のそばに寄り添って生きて行くのか?私は別にいい。和は、私にとって重荷になるようなことをする人間じゃないのはよく分かっている。無根拠で無責任なアドバイスで良ければいつだってしてやれる。
けど、和はそれでいいのか?本当にそれがしたいことなのか?
分からない。いいよ。やってあげる。そう答えるのは簡単だ。けれど、そう答えていいのか。セーブ&ロードの出来ない現実はこれだから困る。
沈黙。視線をグラスに移す。既に空になったグラスの中で、氷がからりと音を立てた。
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