横浜インザ・ドリーム

景文日向

第1話

 今日もこの街は平和だ。政令指定都市として日本一の人口を誇るここ横浜は、俺の住む場所でもある。

「おはよう副部長、今日も頑張りましょう」

 俺に声をかけてきたのは、同級生の望月ネルミ。副部長というのは、ミステリ研究会で俺が務める役職名だ。彼女とは研究会の方でも顔を合わせるので、関わりは深い方である。彼女が歩くたびに、長い黒髪が揺れる。よく手入れされているのだろう、艶がある。元々は演劇部でエースだった彼女がミステリ研究会に入る、という話が最初に出た時は大騒ぎだったなと思い返している間に学校に着いた。


 今日も、それなりに頑張ろう。


***


 俺たちが通う、私立月見野学園高校は横浜でも有数の敷地面積を誇る。今は葉桜だが、春には満開の桜が学園一帯を覆うように咲く。敷地面積が広いということは、当然生徒数も多くあちらこちらで話し声や笑い声が聞こえる。俺はこの環境が嫌いじゃない。むしろ好きだ。

あまった教室を怪しい部活に貸し出してくれる理由も、そこにある。巨大な校舎群の中には、当たり前だが未使用の教室も多い。そこを一部屋貸し出してくれているという訳だ。

ミステリ研究会には、俺を入れて五人の会員がいる。

「獏、今日は早かったね。暇なの?」

「お前の方が早いだろ、咲(さ)夜(や)」

 幼馴染の星川咲夜は、こちらをちらりと見ると読書に戻ってしまった。わざわざここで話をすることもない、ということだろうか。確かに、家も近いのだからわざわざ他人も居るところで砕けた話をする理由もない。第一、咲夜のイメージは地味な風紀委員で本人もそれを今のところは良しとしているのだ。わざわざそれを壊すこともないだろう。

 俺は他の会員に視線を移す。

「なあ、部室に来てまでやることか? 数学の課題って……」

 ひたすらペンで数式を書き殴っている男は、目線すらこちらに向けることなく口を開いた。

「部員はまだ全員集まっていない。時間の有効利用だ、夢野」

「もう片手でチョコ食ってなけりゃ、もう少しキマったかもな」

「うるさい!」

 ツッコミを入れたら、彼——夜見暁人(あきと)はふて腐れてしまった。そういう奴だ。俺は暁人のこういうところ、結構好きなのだが。

「月影は……いつものこととして、望月が来てないのは珍しいな」

 望月は、時間通りに動く女だ。彼女が来ないのはおかしい、そう考えた時に扉が開いた。

「ごめんなさ~い、遅れちゃいました!」

 部長である月影まくらが入ってきた。

「あぁ、いや月影が遅れるのはいつものことだからいいとして……」

 俺は覚えた違和感を皆に共有した。

「確かに、望月が来ないのは妙だな」

 ドーナツを食べながら思案する暁人は、見ているだけでも胸やけがしてくる。

「とりあえず、探しに行こう。私たちは誰か一人でも欠けたら大変なことになってしまうから」

 咲夜のその声で、俺たちは校内を探し回ることになった。

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